2016年8月25日

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フォルクスワーゲン工場が一時操業停止、取引先の部品供給拒否で

フォルクスワーゲン工場が一時操業停止、取引先の部品供給拒否で

独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の国内工場が18日以降、相次いで操業停止に陥った。ボスニア資本のサプライヤー、プレヴェント・グループの供給拒否を受けて完成車と部品を生産できなくなったためだ。同サプライヤーとはその後、協議を開始し、23日になって部品供給の再開を取り決めたものの、今回の両社の争いでは一部部品の調達で特定の1社に過度に依存するVWの危うい現状が浮き彫りになった。

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VWはプレヴェントの独子会社カー・トリムからシートカバー、同ESアウトモビルグスから変速機に投入する差動歯車枠という鋳造部品の供給を受けてきた。プレヴェントの両子会社が供給を停止したことで、18日にまず中型車「パサート」を製造するエムデン工場が操業停止に陥った。22日にはさらに主力車「ゴルフ」を手がけるヴォルフスブルク本社工場と、両モデルを生産するツヴィッカウ工場、シャシー部品と樹脂部品のブラウンシュヴァイク工場も停止に追い込まれた。VWの22日付プレスリリースによると、カッセル工場とザルツギター工場も25日までに生産中断を余儀なくされ、ドイツ国内の従業員、合わせて2万7,700人が影響を受ける見通しとなった。(下の表を参照)
 
今回の争いの直接の原因となったのは、カー・トリムとの開発・調達契約をVWが6月末に打ち切ったことだ。カー・トリムは契約更新を前提に開発と機械購入に資金を投じていたことから、同解約を受けてVWに損害賠償を請求した。メディア報道によると約5,800万ユーロの支払いを要求したという。
 
VWがこれに応じなかったことから、カー・トリムは同社に対するシートカバーの供給を停止。さらに損賠請求権(実際に権利があるかどうかは未確定)の一部を兄弟会社のESアウトモビルグスに譲渡した。ESアウトモビルグスは同債権をVWから回収できないことを理由にVWへの差動歯車枠の供給を停止した。
 
シートカバーの供給停止を受けて、エムデン工場ではパサートを生産できなくなった。また、差動歯車枠の供給が停止されたことで、カッセル工場での変速機生産に支障が発生。完成車工場と他の部品工場にしわ寄せが出てた。VWはコストを削減するために差動歯車枠をESアウトモビルグスから全面調達しており、これが裏目に出た格好だ。
 
<プレヴェントに大幅譲歩>
 
プレヴェントはボスニアの事業家ハストール一族の傘下企業で、ドイツに自動車部品子会社プレヴェントDEVを持つ。VWとは長年、良好な関係を保ってきたが、VWが西バルカン市場でのVW車販売権をプレヴェント系の企業(ASA)から強引に買い取り、同市場での独占販売権を取得したことなどが原因で悪化。プレヴェントは昨年、シートメーカーの独カイパーから南米事業を買収したうえで、ブラジルのVW子会社に値上げを要求し、拒否されるとシート供給を停止した。また、VWの重要なサプライヤーであるESアウトモビルグスを昨年末、カー・トリムを4月末に相次いで買収した。VW側ではこれら一連の動きを、VWに対する圧力を高めるための措置とみている。
 
プレヴェントは23日、部品供給を速やかに再開することでVWと合意した。このため、操業停止中のVW工場は近日中にすべて生産を再開する見通しだ。
 
合意内容の詳細は非公開。メディア報道によると、VWはプレヴェント側に損害賠償を支払うほか、生産停止で発生したコストの支払いを請求しないことを確約した。プレヴェント側は少なくとも2018年までVWに部品を供給するという。
 
自動車業界ではサプライヤーに対する完成車メーカーの交渉力が圧倒的に強い。サプライヤーは通常、相互に競わなければならない状況に置かれており、メーカーは有利な条件を引き出しやすいためだ。
 
VWは取引交渉の姿勢が特に厳しく、サプライヤーに対し“絶対者”として君臨してきた。その同社が中堅部品メーカーに過ぎないプレヴェントへの譲歩を強いられたことで、脇の甘さが露呈する格好となった。
 
VWは今回の“屈辱と教訓”を受けて、部品調達で特定の1社に過度に依存する現状を改め、調達先の複数化を強化する可能性がある。そうなると、ESアウトモビルグスへの差動歯車枠の発注は削減ないし打ち切られることになる。プレヴェント系企業の従業員の間にはVWからの受注が18年以降、途絶えて雇用に影響が出ることを懸念する声が広がっている。

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