店舗賃貸料50%下落も、低迷続く香港の小売業
小売市場の低迷から繁華街では空き店舗が増えている
セントラルのクイーンズロードに面した米国ブランド「COACH(コーチ)」の旗艦店が8月末に閉店した。消費低迷を受けて賃貸料を賄えない店舗が次々と閉店しているが、その影響は高級ブランドにも及んでいる。中国本土からの旅行者減少で小売業は減速し、高騰していた繁華街の店舗賃貸料は来年50%下落するとも予測されている。小売業界をてこ入れするため、財界派の立法会議員からは粉ミルクに対する規制撤廃を求める声も上がった。(編集部・江藤和輝)
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<COACH旗艦店も閉店>
コーチは香港域内に約20店舗を持つが、このうち2008年にオープンしたセントラルの旗艦店はGFから3Fまでの4フロア合わせて約1万平方フィートという広さを誇る。当初、同店舗の賃貸料は広告スペースも含め月260万ドルだったが、12年の契約更新で月720万ドルまで上がり、それでも5年契約を交わした。契約は17年に満了となるが、コーチは2年前倒しで撤退したいと申し出た。その場所は高額の賃貸料のままでは借り手が見つからず、20〜50%引き下げて宝飾品ブランド「ハリー・ウィンストン」が入居することになった。
小売市場の低迷で店舗賃貸料に引き下げ圧力がかかる中、銅鑼湾の繁華街では2割以上の大幅な引き下げも珍しくなくなった。銅鑼湾の景隆街・駱克道では、約380平方フィートの店舗を月38万ドルで借りていた著名靴店が8月の契約満了を機に撤退。オーナーは同額の賃貸料で入居者を募ったが見つからず、最近になって10万ドル引き下げて薬局が入居することとなった。賃貸料は26%減の月28万ドルとなる。また軒尼詩道では数年前に宝飾品店が撤退した空き店舗が月30万ドルで入居者を募っていたが、今年初めには25万ドルに、さらに6月には17万ドルに引き下げたものの借り手がつかず、最近になって5万ドルで雑貨屋が短期的に入居することとなった。当初の賃貸料からは約80%もの引き下げだ。
不動産コンサルタントのCBリチャードエリスは9月16日、店舗市場の見通しを発表。03〜14年の香港の小売業の業績は理想的で、銅鑼湾、尖沙咀、旺角、セントラルといった4大繁華街の店舗賃貸料は平均で213%上昇。だが14年に入ると旅行者の減少でこれら地域の店舗賃貸料は約6%下落、銅鑼湾に至っては12%下落した。同社香港店舗サービス部の連志豪・取締役は「本土からの旅行者の消費に構造的変化が表れ、ぜいたく品の売り上げは最も打撃を受けている。下半期の状況はさらに悪化し、店舗賃貸料は通年で15%下落して11年のレベルに戻る」と予測。特に銅鑼湾は下落幅が最も大きく、20%以上に達するとみている。さらに今後2〜3年は調整期となり、1平方フィート当たりの店舗賃貸料が2000〜3000ドルに戻ることは難しいと指摘した。
投資銀行CLSAはさらに大幅な下落を予想。同社の高頌研・高級アナリストは9月14日、「香港の小売業はまだ底を打っていない」と指摘。今年の小売総額伸び率は年初に4%と予測したが、昨今の状況を受けてゼロ成長に下方修正、さらに来年はマイナス成長とみている。店舗賃貸料は現在繁華街で20〜30%下落しているが、一部ショッピングセンターはまだ賃貸料引き下げを行っていないため、来年は繁華街の店舗賃貸料が40〜50%下落し10〜11年のレベルに戻ると予測している。また同社消費カジノ業研究主管のアーロン・フィッシャー氏は、ある有名ブランド店は香港に10店舗もあるなど多過ぎると指摘。すでに2〜3店舗閉鎖しているところもあるが、実際には7〜8店舗閉鎖すべきと述べた。
<粉ミルク規制の撤廃要求>
小売業界では旅行者減少を受けて総売上高が5カ月連続で減少。統計処が発表した6〜8月の失業率は3・3%で前月発表(5〜7月)と変わらなかったが、業界別に見ると小売業は4・5%。前月発表の4・1%から0・4ポイント上昇し、4カ月連続の上昇となった。業界別失業率では宿泊サービスの4・9%に次いで高く、小売業界の失業者数は1万6000人に上っている。
卸・小売業界選出の立法会議員である方剛氏(自由党)は9月5日、商業電台の番組に出演し、特区政府に対し粉ミルク持ち出し制限の緩和を求めた。方氏は「現在の小売り環境は03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行時より悪い」と形容。低迷が続けば業界は人員削減に迫られると指摘した。並行輸入活動への抗議デモが観光客を減少させていると批判し、梁振英・行政長官が過激なデモに強硬に対処しなかったことや、本土住民に対し即座に謝罪しなかったこと、さらには粉ミルク持ち出し制限を実施したことが問題だと非難した。方氏は梁長官に対し打開策として、粉ミルク持ち出し制限の撤廃、本土の自由行開放都市の6都市追加を要求した。これを受け特区政府は同日、「越境出産や粉ミルクの大量購入は観光行為ではないため、政府は関連政策を変更するつもりはない」との声明を発表した。
翌6日、上水で約半年ぶりに「光復上水行動」と称する並行輸入活動への抗議デモが行われた。デモは「本土同盟」「上水人上水事」といった「本土派」(排他主義勢力)が主催。警察発表ではピーク時で150人が参加。デモ隊はMTR上水駅から薬局の集中する石湖墟まで行進。薬局の前で度々立ち止まってスローガンを叫ぶなどし、多くの薬局や宝飾品店がシャッターを降ろした。一方、こうしたデモに反対する団体「重奪本土」「忠義民団」のメンバー10人余りも上水駅前に集まり、観光業のイメージを損なうとして「光復上水行動」に対する抗議活動を実施。駅前では双方のデモ隊が集まったことで一時衝突も発生した。
その数日後の10日、方剛氏は特区政府本庁舎で梁長官らと会談し、自ら粉ミルク持ち出し制限の撤廃要求を取り下げた。「光復上水行動」が半年ぶりに発生したことは自らの発言に関連するとみているためで、粉ミルク持ち出し制限が撤廃されれば再び過激な抗議デモを触発すると懸念している。今回の会談は梁長官から申し出たもので、小売業の低迷打開について討議するのが目的。梁長官は政府の対応措置として、長期的には新たな観光スポットの開発、中期的には啓徳空港跡地の観光開発、短期的には交通関連施設の改善を挙げたという。
上水だけでなく旺角でも最近、週末ごとに旅行者を排斥するようなデモが再び行われている。昨年の「セントラル占拠行動」の参加者が発足した団体など本土派が区議会議員選挙に向けて並行輸入活動への反感をあおるデモを活発化させる可能性もあり、小売業界はますます打撃を受けることにもなりかねない。
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