ここで法案をめぐる議論を復習してみたい。まず、この雇用創出に関するオムニバス法案は、その立法プロセスに労働組合リーダー、そして学者や地方行政官が関わっておらず、強い非難を受けている。
さらに同法案は外国からの投資のため、インドネシア人労働者の権利や環境の保全を犠牲にしており、「これはインドネシア売りを図るものである」などとして、反発を招いている。
そこで経済の大躍進を狙う大統領はいう。「最終審議までまだ5ヶ月ある」。そしてこの法案こそいわゆる「人口ボーナス(14歳から65歳までの労働人口が扶養者数を超える現象)」によって利益を得る〝最後の手段〟なのだ、と。つまり、法案成立で人材開発と経済の活性化という二期目の選挙公約を実現しようとしている訳だ。
そもそもオムニバス法案とは一体どんな法律なのか? 基本的には複数の相関性のない領域の法令を整理することにより、一括採決できるようにするというものだ。
雇用創出に関するオムニバス法は少なくとも11分野にまたがり、例えば、拘束的な労働法の緩和、投資規制の緩和、さらには移民から知的財産保護にまでおよぶ。
果たして大統領は、この法案を計画通り可決させることができるのか?
残念ながら、そう簡単にはいかないだろう。大統領を支援する連立与党は国民議会(DPR)の議席の74%を占めるが、闘争民主党(PDI—P)党首のメガワティ元大統領との関係がひいき目に見てももうひとつはっきりしない。
ジョコ大統領は法案についてメガワティ元大統領に説明こそしているが、大統領の経済諮問委員会にはこの最大政党からのメンバーが一人も入っていないのだ。
しかもジョコ大統領は現時点ではPDI—Pから法案に対する明確な支援を取り付けていない。従って、法案成立のためには、他の政党、ゴルカル(Golkar)などの政党から支援が必要になってくる。
でなければ、本法案が投資家と有権者の間にどう影響を及ぼすかに神経を尖らすPDI—Pなどバランスを取るため、大統領は彼らに精力的な根回しをしなければならないことになるだろう。
これは彼にとって、まさにリトマス試験紙といえる。もしこの法案が通るなら、PDI—Pは特に労働者と彼らの権利について立ち位置を考え直さねばならなくなる。これは同党党首であるメガワティ元大統領の勢力衰退を意味しており、結果、ジョコ大統領は党の指導者を踏み越えて、ますます力をつけることになる。
文・リリス・イラワティ
ソース:https://www.jakartashimbun.com/free/detail/51134.html