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インドネシア:ナトゥナをめぐる政治 (本名純・立命館大学国際関係学部教授)

先月半ば、中国の漁船団と、それをエスコートする中国海警が、ナトゥナ諸島周辺海域でインドネシア海上保安機構ともめめた。自国の排他的経済水域(EEZ)から出ていけというインドネシア側と、嫌だという中国側の小競り合いである。
 
珍しいことではない。これまでも定期的に起きていた問題だ。 4年前には中国漁船に威嚇射撃や拿捕(だほ)まで行った。しかし、今回ほど主権アピールを大体的に国民に訴え、ナショナリズムの高揚を煽ることはなかった。何が変わったのか。国内政治の力学が変わった。
  
まず大統領の人気政治の側面である。第2期政権の船出は、与党連合の肥大化や汚職撲滅委員会の弱体化などが問題となり、「大統領は民主主義を大事にしていない」という痛烈な社会批判を受けてきた。
  
加えてジャカルタの大洪水や、お膝元の闘争民主党の中枢に迫りつつある汚職疑惑も、社会の政権不信を加速しかねない。こういうムードを払拭するには、ナショナリズムの高揚が一番効果の期待ができる。
  
そもそもEEZ内で操業する外国漁船に対しては、違法漁業の取り締まりが中心課題となる。それは法執行の問題だ。軍艦を前面に出して戦争レトリックで語るのは本筋ではない。ここにナショナリズム効果への期待が透けて見える。
  
また国防大臣のプラボウォにとっても、今回のナトゥナの問題はチャンスの到来だ。彼は、すぐに海軍の哨戒艦を海上保安機構に追加供与するとし、同時に海軍の増強も早急課題だと訴えた。すぐに関連の国防産業が活発になり、大臣の求心力もぐっと高まるであろう。プラボウォにとって、国防大臣としてのプレゼンスを世に示す絶好の機会が今である。彼が率いるグリンドラ党の議員たちも、党首の海軍強化アピールをメディアで側面支援する。
  
このようにナトゥナ問題は、政治的打算を反映して、戦争や海軍力やナショナリズムの話に転化される傾向にある。しかし、実質的に重要なのは外交であり非軍事的な海上法執行だ。
  
外交ルートで根気よく中国に抗議し続け、国際世論で圧力をかける戦略の強化が求められる。ここで、価値と経験を共有する日イの外交協力の重要性が再発見されよう。
  
海上法執行も、日本の海上保安庁が根気強くずっとインドネシアを支援してきた。今こそ、その重要性を再認識し、日イ協力の深化に弾みがつくことを願うばかりだ。

(本名純・立命館大学国際関係学部教授)
 
ソース:https://www.jakartashimbun.com/free/detail/50684.html