にもかかわらず「パプア問題」は深刻度を増している。なぜか。端的に言えば、複雑化する現地社会の姿と、国家の対応にズレがあり、その溝がなかなか縮まらないからである。
そのズレは政府統計に表れている。西パプア州とパプア州は、国内で人間開発指数が最も低く、貧困率が最も高い。
もちろん政府はパプアの発展に取り組んできた。2001年に制定されたパプア特別自治法で、州の財政収入は豊富になった。現政権下でも、村落基金の導入で、パプアの5千以上の村落に大量の予算を直接交付してきた。4千キロに及ぶパプア横断幹線道路の建設も進め、物流コストの削減などの経済効果を訴えてきた。
にもかかわらず、数字が示す人々の生活は厳しい。当然、市民の不満も高まる。本来、特別自治法では、増加予算は地元の教育や福祉に使われることが規定されている。村落基金も、村のマイクロファイナンスや起業家支援に使われるという想定だ。しかし、なかなかそうならないのが実態だ。
規定に不備があり、目的通りに資金が使えないことや、監査体制が十分でないことから、資金の目的外流用が横行する。地元の政治エリートのポケットに入ることも多々ある。こういう政治成金がパプアの各地で台頭しており、彼らの利権追求が活発になればなるほど、特別自治法や村落基金の趣旨が骨抜きになっていく。
特にアブラヤシやコーヒー、木材ビジネスの利権は莫大で、中央政府の指示に反してでも利権獲得に精を出す地元エリートも少なくない。
その結果、パプアで貧富の格差は広がり、新たな社会亀裂を生んでいる。同時に、世代間格差も広がっている。若い世代はネットの影響もあり、外部社会の影響を自然に受け入れる。逆に古い世代は外からの価値流入を脅威と認識する。
また高地に住み伝統的な生活を営む人々と、低地で開発の進む土地に生きる人々の格差も広がっている。開発の恩恵を受ける部族とそうでない部族の格差も大きくなっている。
このように、パプア重視の政策は様々な「意図しない結果」をもたらしている。特別自治法は21年で終了する。複雑化する現地社会の実態とニーズに対応した新たな政策ビジョンの設定がジョコウィ政権に期待されている。(立命館大学国際関係学部教授)