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香港市民に国民待遇、粤港澳大湾区(グレートベイエリア)の契機

  
同弁法は本土に半年以上居住する香港、マカオ、台湾の市民に居住証の申請を認めるもので、9月1日から施行。居住証によって本土での3項目の権利(就業、社会保険と住宅公積金への加入)、6項目の基本公共サービス(義務教育、就業サービス、医療サービス、法律援助など)、9項目の便宜(銀行・保険・証券などの金融サービス、列車の乗車券購入、旅館宿泊など)が認められ、本土住民と同等のサービスを受けられる。公安機関で有効な「港澳居民来往内地通行証」(通称「回郷証」)と本土の住所、就業、就学の証明を提出して申請し、20営業日で交付、本土の身分証と統一の番号が与えられる。林鄭月娥・行政長官は記者会見で「新措置は画期的なもの。本土で生活する多くの香港市民の要求を満足させられる」とコメントした。
  
居住証が申請できるのは本土に半年以上居住する場合に限られ、短期的に本土に赴く香港市民が列車の乗車券を購入したり銀行口座を開設するのは依然不便となる。これについて全国人民代表大会(全人代、国会に相当)香港代表の葉国謙氏は8月23日、回郷証を本土で通用する身分証とすることも検討されていることを明らかにした。現在の回郷証は出入境の用途だけで、本土の電子サービスプラットホームとは隔離され、これを解消するため中央は回郷証を香港マカオ住民の本土での正式な身分証に格上げし、電子サービスプラットホームを通じて各種公共サービスを享受できるようにすることを検討しているという。実現すれば今後は行政措置を通じて国民身分証を発給し、徐々に回郷証に取って代わる見通しだ。
  
国務院は8月3日にも「台港澳人員在内地就業許可」の撤廃を発表し、香港・マカオ・台湾市民が本土で就業する際に就業証を申請する必要はなくなった。本土では2005年から施行された「台湾香港澳門居民在内地就業管理規定」により本土で就業する香港・マカオ・台湾市民に就業証の申請を義務づけていた。この就業証制度が撤廃されるとともに人力資源社会保障部は関連措置を打ち出し、香港・マカオ・台湾市民の就業サービス、社会保障、失業登録、労働者の権利保護などの監督管理を強化するという。香港工会連合会(工連会)の黄国健・理事長は「同措置は香港市民の本土での就業を奨励する政策の一部で、開放政策がさらに一歩前進した意味を持つ」と述べ、粤港澳大湾区の発展に向けた準備と分析。民主建港協進連盟(民建連)の李慧瓊・主席も「これにより本土企業が手続きの煩雑さから香港市民の雇用を敬遠するのを避けられる」と指摘した。
  
先に科学技術研究について中央財政の経費を香港で越境使用することが可能になったのに続き、国家芸術基金も7月30日、本土で就業・就学する香港・マカオ・台湾の芸術職業従事者にプロジェクト申請を開放すると発表。内容は①本土の芸術機関や高等教育機関で1年以上にわたり就業・就学する40歳以下の香港・マカオ・台湾の芸術職業従事者に青年芸術創作人材資金援助プロジェクトの申請を認める。
 
申請受け付け期間は2019年上半期②芸術人材育成資金援助プロジェクトで香港・マカオ・台湾の学生の申請を受け付ける③本土と香港・マカオ・台湾の芸術機関の協力による芸術創作・交流活動を奨励する——となっている。支援の範囲は演劇、音楽、舞踏、美術、書画、撮影、工芸美術などが含まれる。国家芸術基金は13年に設立され、すでに香港で行われた文化芸術交流プロジェクト7件に1130万元の資金援助を行っている。
 
 
高速鉄道は9月23日開通
 
北京で8月15日、「粤港澳大湾区建設領導小組」第1回会議が開催された。中央は粤港澳大湾区計画を推進するためハイレベルの統括組織として同小組を設置。香港・マカオ事務を主管する韓正・副首相がトップの組長を務め、国家発展改革委員会が統括実務を担うほか、香港・マカオの行政長官が初めて中央の戦略決定組織に参画する。ほかに国務院香港マカオ弁公室主任らを含めメンバーは20人余りとなる。
  
韓副首相は会議で「中央は香港が国際イノベーション科学技術センターを建設するのを支持し、積極的に世界のイノベーション資源を呼び込み、広州—
 
—香港—マカオの科学技術イノベーション回廊を建設する」と述べたほか、香港マカオ市民が本土で起業・就業する便宜を図ることなどに言及した。林鄭長官は会議後、香港マカオ市民への便利措置として①広東省・香港・マカオ間の携帯電話ローミング費用を大幅に低減②香港マカオ市民の大湾区内での銀行口座開設手続きを簡素化③香港の電子マネーを大湾区で使用できるようにする——の3つを同小組が検討していることを明らかにした。また科学技術面では①中国科学院傘下の2つの研究所が香港科学園に進出②国務院科学技術部が特区政府創新及科技局と協力措置を締結③大湾区の院士連盟を香港に設立——の3措置が検討されているという。
 
特区政府は8月23日、粤港澳大湾区のかなめともいえる広州—香港間高速鉄道香港区間が9月23日に開通すると発表した。開通後は本土の44駅に乗り入れる。乗り入れ駅は先に発表されていた18駅から倍以上に増えた。
 
一方で高速鉄道にはまだ解決していない問題もある。高等法院(高等裁判所)は7月10日、立法会で6月に可決した「広深港高鉄(一地両検)条例草案」が違憲と主張する訴訟申請を10月末に処理すると関係者に通知した。訴訟申請は青年新政の梁頌恒氏、社会民主連線の梁国雄氏ら5人がそれぞれ提出したもの。高裁は10月30〜31日に5件の訴訟申請を合併処理する。梁頌恒氏と「長洲訴訟王」と呼ばれる郭卓堅氏はその訴訟が正式に審理される前に一地両検の実施を先送りするべく臨時禁止令を申請。だが高裁は8月14日、2人の申請を棄却した。
 
裁判官は書面による裁決発表で「今回の件は公衆の利益にかかわり、仮に禁止令を認めれば高速鉄道の9月開通に影響することは必至。梁氏の提案した『両地両検』による暫定運営も西九龍以降の4駅に税関、出入境管理所、検査検疫などの施設がないので不可能」と説明。高速鉄道の開通が遅れれば香港鉄路(MTRC)やバス会社は月間3億7200万ドルの収入を失い、メンテナンスなどで月間1億7900万ドルのコストを浪費することになるほか、雇用機会や金融、商業、観光業の商機を失うと指摘した。高速鉄道をめぐる政治的対立はもう決着がついているといえそうだ。
    
(香港ポスト編集部・江藤和輝)
  
ソース:https://www.hkpost.com.hk/20180906_13114/