専門技能を持つ欧州連合(EU)域外の人材を企業が採用しやすくすることが柱で、経済界は歓迎の意を示している。
内務省が労働省、経済省と協議して移民法の原案を作成した。今月末にも閣議で了承。その後さらに調整を進め、年末までに法案を閣議決定する予定だ。
ドイツではこれまで、連邦雇用庁(BA)が「人材不足が深刻」と認定した職種を除いて、国内の失業者を優先採用することが企業に義務づけられてきた。EU域外の人材を採用するためには、国内に適した人材がいないことの証明をBAから受ける必要があり、手間ひまがかかる。採用計画を承認されないリスクもある。
3省が作成した法原案には国内失業者の優先採用ルールを原則廃止することが盛り込まれた。このため、企業が採用を決めればEU域外の人材であっても基本的に採用できるようになる。
原案にはまた、専門技能を持つEU域外の人材が訪独して最大6カ月間、求職活動を行えるルールも盛り込まれた。このルールが適用されるのはこれまで、大卒以上の者に限られていた。業務に必要なドイツ語を十分に使えるほか、滞在費用も自弁することが前提となるが、ドイツ全体の求職者数が増えることから、企業にとっては人材を確保しやすくなるメリットが期待できる。
政府はこのほか、就労許可手続きの簡素・透明化も行う考えだ。
ドイツではここ数年、企業の人手不足が加速している。独商工会議所連合会(DIHK)の定期会員企業アンケート調査では「専門人材不足が事業のリスク要因になっている」との回答が今夏に61%へと達し、5年前の32%からほぼ2倍に拡大した(下のグラフ参照)。人手不足数は計160万人に上っており、財界系シンクタンクIWドイツ経済研究所によると、国内総生産(GDP)が年300億ユーロも押し下げられている。
独雇用者団体連合会(BDA)のインゴ・クラーマー会長は「労働市場の現実のニーズを国外からの専門人材によって満たすことができるようになる」と政府の法原案を高く評価した。法案の迅速な作成と施行を求めている。
社会保険財政緩和の効果も
移民法を求める声は以前から強く、中道右派の自由民主党(FDP)と中道左派の緑の党、与党・社会民主党(SPD)は同法の制定に前向きな姿勢を示してきた。一方、保守系与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は票田となる有権者の反発を恐れてこれまで、否定的な立場を取ってきた。
だが、企業の不満の高まっているうえ、専門人材が大量に流入すれば高齢化で悪化が予想される社会保険財政の緩和も期待できることから、CDU/CSUは方針を転換したもようだ。
移民法がないと難民としてドイツ定住を目指す人が大幅に増えて、行政・司法機能を麻痺させかねないという事情も方針転換の背景にあるとみられる。
ソース:https://fbc.de/sc/sc41699/