同法案を巡っては、2016年12月に「統合型リゾート(IR)整備推進法案」が可決されたことを受け、カジノ、商業施設、会議室などを統合したリゾート施設を設置するために必要な法律が策定された。
IR整備法では、1)最初の段階として全国で最大3カ所を設置場所とする、2)カジノ収益の納付金税率を30%とする、3)カジノのスペースをIR全体床面積の3%以内とする──ことなどが決められた。業界関係者は、必要な事項は同法で規定されたとしている。
日本社会では、ギャンブル依存症や犯罪と結びつけられがちなカジノビジネスへの参入意思表明をためらっていた国内企業も、これで「お墨付き」が与えられることになると企業幹部やロビイストらは指摘する。
アナリストによると、統合型リゾートは最大で250億ドルの利益を生み出すと試算され、長年のデフレに苦しむ日本経済にとって救世主となる可能性がある。
金融、不動産、建設、観光など多業種にわたる国内企業が、カジノ運営会社と組んで事業に参画したいと狙っている。
これまでに具体的な計画を発表した企業はないが、候補として名前が挙がるのは大林組、三菱地所、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)など。
大林組の広報担当者は、IRプロジェクトに投資するかどうかは決めていないと述べた。同社は5月にカジノリゾート対策チームを立ち上げた。
三菱地所は、IRに出資する可能性は低いものの、関連不動産プロジェクトに関与する可能性はあるとした。
三井住友銀行広報部は「カジノリゾートへの出資を検討している事実はない」としている。ただ、「海外カジノオペレ―ターなどへのヒアリングを含め、業界動向や影響等について様々な観点から幅広く調査活動を行っている」という。
一方、日本のカジノ市場への参入を目指す運営会社は、米系のラスベガス・サンズ、MGMリゾーツ・インターナショナル、マカオのギャラクシー・エンターテインメント・グループなど。
ラスベガス・サンズの世界市場開発担当専務取締役、George Tanasijevich氏は「このプロジェクトには今後ますます関心が高まり、予算や人材が集まる」とみている。同氏は「様々な動きが出てくるだろう。現実的なオプションを検討し、株主の要望について考え始めるだろう」と話した。
<社会的抵抗>
安倍晋三首相はカジノ産業を経済活性化策の目玉の1つとしているが、国内企業は社会的に抵抗の強いこの業界への参入に、最初に手を挙げることをためらっている。
昨年の政府による調査では、日本人の約3.6%に当たる320万人がギャンブル依存症とされている。時事通信の世論調査では、10人のうち6人超がカジノに反対だと答えた。
法律事務所DLAパイパー(東京)のマネージングパートナー、ランス・ミラー氏は「大手企業は、他社より先に出たくないと考えている」と指摘する。
とはいえ、一部の企業はすでに態勢を作り始めた。パチスロ大手のセガサミーホールディングスは、日本のIRプロジェクトでは過半数株式取得を目指すとしている。同社は韓国でIRの運営会社に45%出資している。
IR整備区域としては、大阪府が最有力候補と目されている。大阪は2019年後半にも先頭を切って計画書を提出する見通しだ。
在日米国商工会議所IRタスクフォースのセス・サルキン会長は「大阪は問題のない唯一の候補地だ」と話した。
(Thomas Wilson、翻訳:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)