中国のITをけん引するアリババが、次のターゲットに定めたのは農業。会場では農業向けAIプラットフォーム「ETアグリカルチュアル・ブレイン」の立ち上げを正式に発表しデジタルで農業を変革する決意を表明した。
グレードアップ
クラウドコンピューティングカンファレンスは、3月の深センを皮切りに、12月までの間に南京、武漢、上海、重慶、杭州、広州、北京で開催していく予定。2018年のテーマは、中国政府が掲げる「デジタル中国」の実現に向け、アリババの技術で力を与えることを意味する「Empower Digital China」に設定された。
胡曉明総裁
上海会場で最初に登壇したクラウド事業を統括する胡曉明総裁は、「インターネットの発展に伴い、中国はデジタル化の社会に入っている。都市や社会の管理、経済の発展にはデジタル技術が必要になっている」と切り出し、「インターネット上でもリアルの世界でも、効率化や省エネ化のために新しい技術を使うようになっている」と語りかけた。
そのうえで、ビッグデータの活用によってスマートシティの構築を目指す都市管理向けAIプラットフォーム「ETシティ・ブレイン」を例示。現在、上海を含む中国国内各都市の発展に関与し、交通管理や環境や物流の改善に役立っているとした。
上海での取り組みについては、音声認識で地下鉄の切符が購入できるシステムを例示した。カンファレンスの会場と地下鉄の駅を中継し、駅構内の喧噪のなかでも音声が聞き分けられるほか、アリババのモバイル決済サービス「支付宝(アリペイ)」によって現金を必要としないことも説き、アリババの技術は「都市をグレードアップすることが可能だ」と胸を張った。
都市から農村へ
会場では、アリババが提供するクラウド関係のソリューションが幅広く展示された。目玉の「ETアグリカルチュアル・ブレイン」は、1頭の雌豚の出産頭数を3頭引き上げ、生まれた子豚の死亡率を3%低くすることが期待できるという。
具体的には、養豚場に設置したカメラやセンサで豚の体長や体温を測定し、鳴き声を収集する。その後、集まったデータを画像認識技術や音声認識技術を使って分析し、豚の健康状態を管理する仕組みだ。それぞれの豚は、カード型の端末を体内に埋め込んで識別する。
中国では現在、都市部と農村部の格差が大きな問題になっている。アリババの馬雲(ジャック・マー)会長は、会場に寄せたビデオメッセージで「これからの20年で、インターネットとクラウドコンピューティング、ビッグデータによって農業に大きな変化が起こる」と主張。自社の技術を活用し、格差を是正することに強い意欲を示した。
さらに、IT技術を活用して生産性を向上させ、農業を稼げる産業に育てることを目標にあげ、「今までは農村から都市に人が流れていたが、今後は都市から農村に行く人が増えるようにしたいと思っている」と力を込めて語った。
五輪を支える
2022年に北京市を中心に開催される冬季五輪・パラリンピックでは、アリババはデータセンター(DC)の運営を担当することになっている。カンファレンスでは、DCの設立を祝う式典も行われ、胡総裁らは、銘板を入れた氷細工をたたき割る中国式の方法で安全と成功を祈願した。このほか、アリババクラウドの製品責任者らも登場し、最新の研究動向などについて紹介。中国国内のホテルや銀行の首脳らも駆けつけた。
氷細工の中からお目見えした北京冬季五輪・パラリンピック用データセンターの銘板
「3年でAWSの技術に追いつく」
阿里雲(アリババクラウド)の胡曉明総裁は6月7日、カンファレンスの会場で報道陣の取材に応じ、世界市場で先行するアマゾン ウェブ サービス(AWS)について、「3年で技術的に追いつく」との目標を示した。
胡総裁は「アリババのクラウド事業は、AWSより3年遅くスタートしたが、成長の速度はAWSを上回っている」と説明。そのうえで「中国には、企業のデジタル変革を進めるための巨大な活用の場がある。そのなかでわれわれは技術を高めていく」と自信を示した。
さらに、技術を向上させるために「パートナーとの協業も加速させる」とし、日本については「SBクラウドは非常に重要なパートナーで、SBクラウドを通じて日本との関係が持てることはとても大切だと思っている」と強調した。
米調査会社ガートナーが2017年9月に発表した調査結果では、16年の世界のクラウド市場では、AWSが44.2%と圧倒的なシェアを獲得。アリババクラウドは3%で3位だった。
(取材・文/週刊BCN+ 齋藤秀平)
ソース:https://www.weeklybcn.com/journal/news/detail/20180628_162961.html