クライアン頭取は2015年7月に就任した。前任者のアンシュー・ジェイン、ユルゲン・フィッチェン共同頭取はともに訴訟リスクを抱えていたことから、そうした心配のないクライアン監査役(当時)に白羽の矢が立てられた格好だ。
クライアン頭取は同行の業績を大きく圧迫してきた法務リスク問題の終結にめどをつけることに成功したものの、経営のスピード感に欠けるうえ、業績をどのように拡大していくのかという明確な道筋も最後まで提示できなかった。17年12月期に3期連続で最終赤字を計上したうえ、今年第1四半期の業績見通しも不良だったことから、風当たりが強まっていた。
パウル・アハライトナー監査役会長がクライアン頭取の後任探しに乗り出したとの観測が3月に流れると、市場では同行の先行きに対する懸念が強まり、株価が下落。監査役会はこれを受け後任者の選定作業を加速し、8日に新頭取を決定した。
ゼーヴィング新頭取は1989年の入行以来、ほぼ一貫して同行に勤務してきた。日本駐在の経験もある。15年1月に取締役となり、17年3月からは副頭取も務めてきた。これまではリテール部門の統括責任者だった。アハライトナー監査役会長はメディアの取材に、ゼーヴィング頭取は実行力とチームワーク力が高くトップにふさわしい人材だと太鼓判を押した。
「コスト削減で妥協せず」=新頭取
ゼーヴィング頭取は就任翌日の9日、従業員向けのメッセージを公表。ドイツ銀は事業の整理や自己資本の強化など多くのことを成し遂げたとこれまでの成果を指摘したうえで、業界を取り巻く環境の急速な変化を踏まえてさらに発展していかなければならないと強調し、収益力の強化に向けて「狩人精神」を取り戻すとともにチームワークを大切にするよう要求した。また、これまでは業務プロセスのスピードが遅かったと反省したうえで、無駄な手続きや重複業務を削減する意向を表明した。調整済みベースのコストについては今年230億ユーロ以内に抑制することを至上命令としている。
同行が収益・コスト目標をこれまで達成できなかったことに関しては、「それなりの言い分があるのだろうが、経営陣はそうしたことを今後、許容しない」と明言。「この点については厳しい決断を下し貫徹する」と強い姿勢を示した。
ドイツ銀は同日の声明で、投資銀行部門を統括するマルクス・シェンク副頭取が退任することも明らかにした。シェンク副頭取は次期頭取候補の1人と目されてきた経緯があり、ライバルであるゼーヴィング氏の頭取就任を受けて辞任を決めたもようだ。
大株主の間ではこれまで、投資銀部門を中心に業績改善を図ることを求める声が強かった。だが、最近は変化が出ているもようで、ある大株主は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、「この銀行(ドイツ銀)は米国事業を、利益を稼げる分野に絞り込むべきだ。米国の競合から同国で市場シェアを奪うことは低価格を通してしか達成できない。これはこの銀行にとても高くつく」と発言。投資銀行部門の整理縮小を要求した。
新頭取に投資銀行部門のシェンク副頭取でなく、リテール部門のゼーヴィング氏を任命した背景にはこうした事情があるとみられる。同氏は投資銀行部門について、収益力の低い事業から撤退し、収益力の高い事業に経営資源を集約する意向を表明した。
ドイツ銀行は国際的に事業を展開する同国企業にとって必要不可欠な存在と目されている。化学大手BASFのユルゲン・ハンプレヒト監査役会長(前社長)は「(米国と中国の影響力が世界的に強まるなかで)国外進出企業に同伴できる国際的な銀行が自国にあることの戦略的な重要性は高まっている」と述べ、ドイツ銀の業績回復に期待感を示した。
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