50ヘルツは独東部とハンブルクで送電事業を展開する企業。もともとはスウェーデンの電力大手バッテンフォールの子会社だったが、欧州連合(EU)の送発電分離政策を受けてエリアとIMFが2010年に共同買収した。
IMFは2月2日、出資比率を40%から20%に引き下げる意向を表明した。エリアは当初、先買権を行使しない考えだったことから、IMFは国家電網に売却する方向で交渉を行った。だが、自国企業を地政学の駒として利用する中国の資本が民生・安全保障のうえで極めて重要なインフラである送電網の運営会社に参加することをドイツ政府が強く懸念。政府はメディアの問い合わせに不介入の意向を示していたものの、実際には経済省の事務次官が国家電網の出資阻止に向けて50ヘルツの出資者に働きかけを行ったもようだ。
政府がこうした工作を水面下で行った背景には、法律に基づく方法では国家電網の出資を防げなかったためだ。ドイツでは貿易法の規定により、公共秩序・セキュリティに支障が生じる恐れがあると経済省が判断した場合、EUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業が自国企業に25%以上、出資することを禁止できるものの、国家電網は50ヘルツの資本取得を20%にとどめる計画だったことから、同法に基づく審査を行えない状況だった。
ドイツでは再生可能エネルギーの利用拡大政策を受けて、送電網の拡充が重要課題となっている。発電量が天候に大きく左右される再可エネ電力を送電網に安定的に統合するとともに、北部の風力発電パークで生産される大量の電力を南部に送る必要があるためだ。
エリアは資金力のある国家電網を共同出資者とすることで送電網整備の資金を確保する考えだったが、今回の取引によりこの可能性は潰えた格好となった。今後5年でドイツに33億ユーロを投資するとした従来の計画は堅持している。
裁判所決定が後押しの可能性も
エリアが先買権を行使したのは単に政治的な圧力だけでなく、経営上のメリットを見越したためとの見方もある。具体的には、送電料金に絡んでデュッセルドルフ高等裁判所が22日に下した決定が50ヘルツへの出資比率引き上げを後押ししたとの観測だ。
同裁判は送電網・ガスパイプラインの運営事業者がインフラ投資の金利を監督官庁の連邦ネットワーク庁が引き下げたことを不当として起こしたもの。電力・ガス輸送網への投資額は金利を上乗せして最終的に電力料金に転嫁されることから、同庁が金利を設定することで運営事業者が不当な利益を得ないようにしている。
同金利は昨年まで、新規インフラへの投資で9.05%、既存インフラへの投資で7.14%となっていたが、同庁は歴史的な超低金利を踏まえてそれぞれ6.91%、5.12%に引き下げることを16年に決定した。新金利はガスパイプラインで18~22年、送電網で19~23年に適用されることになっている。
これに対し電力・ガス輸送網事業者は、新金利は市場のリスクを過小評価したもので不当だと非難し提訴。二審のデュッセルドルフ高裁はこの言い分を認め金利計算のやり直しを連邦ネットワーク庁に命じた。
同庁は上告する公算が高く判決は確定していないものの、同金利が引き上げられれば50ヘルツの収益力が高まることから、エリアは出資比率引き上げに踏み切った可能性がある。
ソース:http://fbc.de/sc/sc41113/