欧州商工会議所が開催した物流フォーラムの期間中、投資家や企業経営者達はカンボジアにおける物流の現状が切迫した状況にあることを説明し、物流コスト引き下げに向けた対策を直ちに講じるよう政府に対して訴えかけた。このことは演説者として招かれていた政府役人を驚かせる結果となった。
政府は国内事業の物流コスト軽減に関する公約に従って動き始めなければならないと、高い影響力を持つ在カンボジア米国商工会議所のCharles Esterhoy所長は述べた。「民間企業は政府を全面的に支援します。話し合いの時間は終わりました。至急行動に移す必要があります。」とEsterhoy所長は述べた。
物流大手MaerskのTung Phamエリア統括長は、事業コストが迅速に引き下げられなければ、近隣諸国に投資が移ってしまうかもしれないとの懸念を示した。また豊田通商株式会社テクノパークポイペトの丹崎太郎副社長はさらに一歩踏み込み、原価高を理由としたカンボジアからの撤退もありうると述べた。「当社の投資家とも相談する必要はありますが、非公式な手数料を中心とした物流コストについては常に懸念の対象として上がっています。こうしたコストを削減できなければ、これ以上カンボジアに投資が集まることはないでしょう。状況は極めて深刻です。」
長年にわたって民間企業は一様に似た水準になっているが、今年の全国選挙を目前としたフンセン首相のポピュリズム政策の真っ只中でその緊急性は差し迫っている。繊維労働者の月額最低賃金は2014年には125米ドルであったが、今年に入って170米ドルに引き上げられた。これが原因となり、人件費は急激に上昇している。また政府は、全業種を対象とした新しい最低賃金の制定と労働者の健康保険に対する雇用瓊種の負担額の引き上げも計画している。
企業のこうした懸念に対する深刻度の高さは、公共事業運輸省陸上交通局のSophal Kong副局長に大きなショックを与えた。物流コストが原因で外国投資が停滞すると聞き、Kong氏は「とても驚いた」という。「(コストの上昇は)どこでも起こっていることです。」
「カンボジアの物流コストが少し高いことは確かですが、言われるほどひどくはないと思います。」Kong氏は国内の道路の50%以上が未舗装であることを認めつつも、政府がインフラ整備に取り組んでいることを指摘した。公共事業運輸省が定める開発戦略は70%が遂行されており、プノンペンとシアヌークビルを結ぶ高速道路の建設計画もある。
Economic Intelligence Unitのアセアン地域ヘッドアナリストのMigeul Chanco氏によると、政府はここ数年、事業にかかる費用の削減をフォーカスの対象から外しているという。
「政府の優先事項トップ5から物流コストの高さが外れていることは間違えありません。多国間・二国間援助によるインフラ開発が遂行されていくにつれ、事業にかかるコストは軽減されていくでしょう。しかしながら、こういった改善が効果をもたらすには時間がかかります。また政府の財政状況は良いとは追えず、建設を早めることは難しいのです。」
最低賃金が上昇し続ければ、国内にある事業がベトナムやバングラデシュといった同じ賃金レベルの近隣諸国に移転し始めることは想像に難くないとChanco氏は述べた。
「事業の流出というのは突如として起こるものではなく、長い時間をかけて徐々に行われていくものでるため、政府が緊急性を感じていないことを懸念に感じています。」
目に見える改革が行われていないと言うことを理由に、世界銀行は毎年発表している「ビジネス環境ランキング」において、カンボジアの順位を2年連続で落としている。
また今月初頭に発表されたヘリテージ財団の経済自由度指数においてもカンボジアは順位をわずかに下げている。
<DIGIMA NEWS 編集部の視点>
カンボジアは、ベトナム・バングラディシュと同じレベルの最低賃金に上昇している。しかし、ベトナム等と比べると人口が少なく、市場規模も小さい。このまま人件費が上昇を続けると、隣国に比べメリットが薄く感じられるかもしれない。