それは、他の先進国に比べて、若者に対する妊娠適齢期の教育の周知や国のサポートが不十分だからだと言われている。要するに、こういった国のサポートが欠けているがゆえに「産める体を育てる」意識が、日本人女性は欠けてしまっているのだ。
フランスに住んで7年間、毎年婦人科に通っていた筆者からすると、正直言って、日本は産婦人科医療後進国だと思う。なぜなら、検診が保険でカバーされないからだ。そしてこれが、日本の産婦人科医療全ての問題の根源にあるように思う。
日本では、検診は病気の人が受けるものではない、という見地から、健康保険がきかない。平尾レディース院長の宗田聡はこのように語っている。
Q.何で検診だけなのにこんなに高いの?保険がきかないの?
A.何でも保険証で割引がきくわけではありません。健康保険はお得割引券ではないからです。日本の保険制度は、病気の方に保険がきくようになっていますから、病気でない方は使えません。妊娠も病気じゃないというふうにとらえられていますから、妊婦さんも使うことはできません。もちろん、妊婦さんが便秘したり風邪を引いたりすれば、便秘や風の薬にはちゃんと保険がききます。
婦人科検診は、現在病気にかかっているわけではなく、むしろ病気を早期発見するためのものですから、検診費用は実費になります。検診で異常が見つかれば、当然もっと詳しい検査(精密検査)をして処置ということになりますが、これは保険が適用されます(著書『31歳からの子宮の教科書』より)。
もっともらしく聞こえる言い分だが、要するに日本の健康保険の概念というのは、事件が起こってからしか動いてくれない日本の警察と同じようなものである。「問題があったらお金は出すよ」というスタンスで、病気になりにくい心身を作る予防医学には一銭も出さないわけだ。
しかし、子どもが産める年齢にタイムリミットがある婦人科の場合は、「予防医学」こそが重要なのではないかと思う。女性の晩婚化が進み、いくつになっても妊娠できると勘違いしている女性も少なくない現代こそ、この予防医学を推進する取り組みが必要なのではないだろうか。
ちなみに筆者は、フランスに来て以来、7年間ずっと避妊用ピルを飲み続けている。フランスでピルをもらうには最低でも1年に1回、検診を受ける必要があるのだが、検診は全て保険でカバーされるので無料である(もちろん、ピル代も無料)。この検診には、血液検査、おりもの検査、乳がん検診、内診などが含まれる。フランス人女性のピル服用率は約60%だが(日本は1%)、ピルを服用していないフランス人でも1年に1回の婦人科検診は欠かさずに行くという人が大半である。
フランスの婦人科検診の最大の魅力は、信頼できる医師に定期的にちょっと気になることを相談できる点だ。
フランスでは婦人科医をgynécologue(ジネコロッグ)と言うのだが、フランス人女性はma gygy(私のジィジィ)と愛称で呼ぶほど、身近な存在である。フランスの女性たちはジィジィから、女性の体のしくみや、性病、婦人病、ガンなどの知識をつけていくのである。フランス人が婦人科の先生とこのように長く付き合っていけるのは、受診が無料だからこそである。
この婦人科医との距離感が、日本の体外受精実施数の多さに直接関係しているように思う。現実に、20~30代の日本女性の婦人科検診受診率は、先進国では最低ラインの約35%だが、これは国が検査費を負担してくれないことに起因しているのではないだろうか。
いくら「早期発見には検診が必要」とわかっていても、約1〜3万円程度の高い費用がかかるようでは、「1年に1回の婦人科検診は欠かさずに行こう」という意識が日本人女性全体に広まるのは現実的に難しい。
思春期の頃から「私のジィジィ」に定期的に通うフランス人女性と、婦人科検診が有料で検査を受ける人が圧倒的に少ない日本人女性では、女性の体の構造に対する知識や「産める体づくり」の意識の違いが表れるのも至極当然だ。
ちなみに、フランスの体外受精実践数は7万9000件で、日本の3分の一程度である。この数字の違いに、フランス人女性と日本人女性の、「国のサポートの違いによる知識の格差」が集約しているように感じる。
しかしながら、何にでも国が医療費をサポートすべきだという考えには反対だ。高齢による不妊は自己責任の範疇であると思うし、35歳以上、特に40代の場合、”不妊”というよりは、生殖能力を失っていくのは生き物として当然のことだ。それに、「いつまでも妊娠できると勘違いしてたら、こんな年齢になっちゃいました~♪」という呑気な女性を、国の税金で賄ってあげるのは、筋が違うと思う。
しかし、だからこそ、こんな間違った知識を妄信している女性を減らし、妊娠や出産について医学的に正しい知識をつける社会づくりが必要なのではないだろうか。
2015年3月、日本産科婦人科学会(日産婦)などが、学校教育の現場で妊娠適齢期についての教育を導入するよう求める要望書を有村治子少子化担当相に提出した。女性のライフスタイルの変化により晩産化が進んでいるが、30代になると妊娠する能力が低下するとして、正しい医学的知識を中学や高校の教科書に載せることを求めた。
しかし、あれから中学・高校の教科書に妊娠適齢期についての導入がなされたという新しいニュースは入っていない。仮に、教科書や教育現場で妊娠適齢期についての教育をちょろっとしたところで、10代の若い男女にその内容がどれだけ現実的なものとして頭に入るのかは疑問である。
そんなんじゃ、足りないんじゃないの?
日本人女性の誰もが「私のジィジィ」がいる社会になれば、日本の不妊治療者数は圧倒的に減るはずだ。
ソース:https://www.madameriri.com/2016/11/27/gynecology-in-japan/