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カンボジアで頻発する女性工場労働者たちの集団失神事件、その理由とは…?

   
過熱や通気性の悪さなどの息苦しい労働条件が原因だという者もいるし、月間の最低賃金額が153米ドルである繊維工場労働者は栄養失調状態であり、過労状態にあると説明する者もいる。労働者達が結婚式シーズンのお祭り騒ぎに過剰なエネルギーを注ぎ込むために失神に陥るのだと昨年中国系工場のオーナーは語った。
一方地元民達は、数々の悪行の報復として工場を呪う、怒れる怨霊や悪霊の仕業であると非難している。 
   
しかしながら、査読済みジャーナル「比較精神医学」で発表された民俗学研究によると、「心理的なトラウマや恐れ」という共通の要素が、2010年〜2015年に起きた34の繊維工場での集団失神事件で見つかったと言う。
   
研究者でありモナシュ大学の教授でもあるMaurice Eisenbruch氏は、社会不和のコンテキストやクメール・ルージュの恐怖や暴力といったカンボジアの血塗られた歴史の中で集団失神は考慮されるべきものであると説明している。
   
「集団失神は、キリング・フィールドとして忌々しいとされる地所に建設された工場や、工場政治に関する紛争が起こった状況下で発生する傾向にある。労働者グループは、恐怖状態や意見相違の風潮が高まった際に失神する傾向にある。」とEisenbruch氏は著している。
 
調査時、Eisenbruch氏は集団失神が少なくとも一回は発生している工場を詳しく調べている。
調査により、全ての事例で激しい恐怖や脆弱性が先行していたことが判明した。
 
「集団失神の事例は、労働者達が恐怖を感じ、極度に怯えることが原因の、瞬間的な忘我状態と注意力の喪失があたかも”正気を失った”と感じることから始まる。年配女性の何人かは、幼少期のクメール・ルージュ治世下の経験をフラッシュバックし、自分が次に処刑されるのではという恐怖を再体験していた。」とEisenbruch氏は記した。
 
失神者たちはしばし、胸の痛み、動機、震え、方向感覚の喪失を感じていた。
概して事例は、地元の歴史や信仰に結びついた、特定の出来事によって引き起こされたと信じられていた。例えば幾つかの事例では、亡霊がとりついていると信じられている地所や大量処刑・暴力が過去に行われた地所に、外国人オーナーが工場を建設している。
 
「土地収奪デベロッパーは家々を取り壊すためにブルドーザーを持ち込んだが、その中には守り神のものも含んでおり、彼らの許しを得なかったため集団失神が発生したと人々は信じている。」とEisenbruch氏は記している。
 
またEisenbruch氏は、外国人工場オーナーと地元労働者や労働者代表の間で起こる紛争や、致命的な労働災害、労働関連の自殺が、集団失神の一因となっていることを発見した。
カンボジア縫製業協会のKen Loo書記長は、ストレスが失神の主な要因になっているという考えに異議を唱え、代わりに、労働者の血糖値の低さや体調不良が原因であると述べた。
 
一方、ジェンダーと開発カンボジアのRos Sopeaph理事は、女性の健康的な労働環境の確保により、集団失神は阻止できるだろうと述べた。
「工場では大量の化学物質を使用しています。しかしながら管理者は男性で、ほこりや化学物質、熱の中に座っているわけではありません。空気循環と、女性が座っているのか立っているのか、または手洗いに行くのを許されているのかをチェックする必要があります。」とSopeaph氏は述べた。
 
工場で失神した労働者の数は昨年1160名と、2015年の1806名からは減少した。
 
集団失神はカンボジアだけで起こっている現象ではない。ネパールの難民キャンプやコロンビアの校舎でも起こっている。それぞれの場所で、女性の大きなグループがストレスの多い状況下で狭苦しい場所を共有している。
 
Eisenbruch氏によると、彼の民俗学研究では、集団失神は集団的不安の表れであると論証しているという。
 
「当事者の女性にとって、失神はその女性がこれまで人生で受けた苦しみが全て、一瞬の内にやってきて起こるものである。恐怖、フラッシュバック、虐待、痛み、無力感、脆弱性、不公平、貧困、終わりのない悲しみと喪失感なのである。」とEisenbruch氏は記した。
 
Photo by Jonathan Kos-Read on Flickr

ソース:http://apparelresource.asia/news/item_2843.html
   
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