昨年10月、日産自動車は英国最大となるサンダーランド工場で、多目的スポーツ車(SUV)の「キャシュカイ」と「エクストレイル」を生産することを発表した。また、投資を増やすとともに、7000人の雇用創出も約束したのである。
日産のカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)は「英国から支援と公約を得られた」と述べていた。英国のEU離脱で輸出に関税が課される可能性があり、競争力低下が懸念されていた中で投資に踏み切ったのである。また、今月16日にはトヨタ自動車も英国への約340億円の投資を発表した。
今後2年間にかけて行われる、英国とEUの離脱交渉や将来協定交渉は難航するとみられている。英国は離脱後も離脱前と同様にEU単一市場と連携する交渉を持ちかけるも、EUは英国が離脱決定前に約束した、EU予算の分担金で最大600億ユーロ(約7.3兆円)の支払いをしないと交渉にすら応じない姿勢を見せているのである。それに対して英国メイ首相は「悪い合意なら決裂したほうがまし」との強気な姿勢を見せており、合意に至らない結末も臭わせられる。
もし合意に至らなければ、EU市場と貿易する際は世界貿易機関(WTO)の定めるルールが適用され、、自動車の輸出には10%の関税がかけられることとなる。自動車メーカーにとっては大きなデメリットであるはずだが、日産やトヨタはなぜ英国への投資を増やしたのだろうか。それには大きく2つの理由があげられる。
1つ目は、メイ首相の語る「支援と公約」である。EU市場から離脱しても経済を保ちたい英国にとって、同国で年約48万台も生産している日産等の国外移転は避けたいことだ。そのため、日産には工場への支援に加え、離脱後の無関税を公約している。その背景には「強い英国」への狙いがある。EU市場を離脱したとしても、「強い英国」であれば、世界でそのポジショニングを維持することができるのである。
2つ目は、実は英国からの自動車輸出はEU圏外のスイスが大半であるということである。また、ポンドは下落しており、輸出には拍車がかかる。そして、スイスはEU市場の主要貿易国でなのである。
EUからの離脱は初めての出来事であり、英国はそれなりのリスクを背負うことになるが、1元的ではなく多角的にみることで、進出商機の本質が見えてくる。EU各国でも大衆迎合主義(ポピュリズム)が台頭する今、世界が想像する以上にEUの方がリスクを背負っているのかもしれない。
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