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ドイツ社民首相候補がシュレーダー改革を批判、左派連立への布石か?

 
アジェンダ2010はシュレーダー首相(当時)が2003年に打ち出した社会保障制度・労働市場改革。ドイツは当時、グローバル経済競争の激化や少子高齢化対策の先送り、東ドイツ編入に伴う問題の発生を受けて「欧州の病人」と言われるまでに経済が悪化していた。
 
シュレーダー首相は1998年の就任当初、労使の協調を通して企業の人件費負担軽減と雇用拡大を図る政策(雇用のための同盟)を政権運営の基軸に据えて政治の舵取りを行ったが、経済は下降線をたどり失業者がじりじりと増加していったことから、“痛みを伴う改革”を断行した。
 
具体的には年金、健康保険などの社会保険料の引き下げを通して企業の財務負担を軽減したほか、雇用拡大に向けて派遣労働・有期雇用規制の緩和と失業手当・生活保護ルールの厳格化を行った。
 
これらの改革のうち「ハルツ4」で知られる改革は賛否両論が特に激しい。同改革は長期失業者と就労能力のある生活保護受給者を対象に新たに「求職者基礎保障給付金」を設置したうえで、給付水準を低く設定し就労を促すというものだ。資金は国の財政で賄われている。
 
シュレーダー政権はこれとともに、労使折半の保険料で賄われる失業手当について、高齢失業者の受給可能期間を短縮する措置も導入した。同期間が長いと、求職活動を行わず失業手当をフルに受給した後に年金を繰上げ受給する人が増えるためだ。
 
 
経済界に危機感
 
シュレーダー改革は効果を発揮し、国内総生産(GDP)は06年に3.7%へと急上昇。雇用情勢も改善し、ドイツは欧州経済のけん引車となった。
 
ただ、改革の副作用として非正規雇用が増加。また、失業すると再就職が難しい高齢被用者の間には、ハルツ4の受給者となり貧困に転落することへの不安が高まった。
 
シュルツ候補はこうした事情を踏まえ「わが党は誤りを犯した」と述べ、シュレーダー改革を大幅に修正する意向を表明した。修正対象は公的年金、有期雇用ルール、失業手当と多岐に渡る。
 
シュルツ候補は講演で、長年働いて社会保険料を払い続けてきた就労者が50歳を超えて失業し、ハルツ4の受給を余儀なくされることはあってはならないと断言。高齢失業者の失業手当受給可能期間を再び長期化するとともに、職業研修を受けられるようにする考えを示した。
 
有期雇用については正当な理由がない限り認めない方向だ。現在は理由の説明なしに最大2年間、有期雇用を行うことができる。
 
公的年金に関しても将来の受給水準が低下しないようにするほか、最低給付水準を定めて勤労者の“下流老人化”を回避するとしている。
 
SPDは13年に行われた前回の連邦議会(下院)選挙でもシュレーダー改革の一部修正方針を打ち出した。だがこのときは、選挙後にCDU/CSUと連立を組んだことから実現できたのは一部にととまった。
 
今年9月の選挙では連立先を緑の党、左翼党へと変更できる見通しが高まっている。シュルツ氏を首相候補に決定したところ、SPDの支持率が急上昇しているためだ。
 
公共第二放送ZDFが17日発表した最新の世論調査によると、SPDの支持率は前月の24%から30%に上昇。緑の党、左翼党と合わせた3党の合計は46%に上っており、左派政権成立というシナリオはにわかに現実味を帯びている。
 
だが、社会的弱者にやさしいこれらの政策を実施するには、税収の拡大や社会保険料の引き上げが必要となる。有期雇用で採用したうえで適切な人材を正社員化することもできなくなることから、企業は新規採用に慎重になる可能性がある。
 
そうなると企業の競争力が低下し経済が再び悪化する恐れがあることから、経済界は強い危機感を抱いている。雇用者団体系のシンクタンク「新しい社会的市場経済イニシアチブ((INSM)」は22日、『フランクフルター・アルゲマイネ』などの主要紙に全面広告を出してシュルツ候補に再考を促した。文面は「親愛なるマルティンへ、君はまだ覚えているかい。失業者530万人、若年層の失業率12.5%、長期失業者180万人。ドイツは欧州の病人だった。我々が現在、再び良好な状態にあるのはアジェンダ2010のおかげだよ。後戻りすることで事態がもっと良くなるなんて君は本当に信じているのかい?」
 
ソース:http://fbc.de/sc/sc39318/