カンボジアには多くの無名の工場がある。『牛糞』工場では、牛が工場の出入り口で用を足すという。その他にも、『紙の花』工場、『マンゴの木』工場、工場オーナーやマネージャーのファーストネームで呼ばれるものさえある。カンボジアの縫製労働者はこうした謎につつまれた正体不明の工場について、ユーモアのセンスを持って接しているが、そこで働く人々は国の法律や国際的な規範に違反しているような不正な労働慣行に対してなす術がない。
これはカンボジア縫製産業の恥部であり、国際アパレル産業において最低レベルの労働環境に位置付けられる。多くの場合、小規模工場はより大規模な輸出向け工場の下請けとして稼動しているが、その調査やモニタリングの対象となることはほとんどない。労働者との間には多くの隠し事があり、その労働条件やビジネス慣行の大部分は明らかにされない。こうした小規模工場は、多くの監査対象となっている大規模工場のコスト削減の一助となっている。またカンボジアのアパレル部門において、最近増加を続ける月額153米ドルの最低賃金の法逃れとも大いに関係している。
今年の初めに我々は、プノンペンに近いカンダール州周辺に約50の小規模工場を見つけた。いくつかの工場はとても小さいものであったが、車で通り過ぎた際に、私は車窓から忙しく働く労働者や衣料品の山を識別できた。また多くの工場では広告を掲示していた。季節のアパレル注文に対応するため、こうした工場がどのくらい乱立しているのか推定することは不可能である。
多くの工場は換気扇がほとんどない巨大なブリキ小屋のようであり、また別の工場はまるで家のようであった。1~2つの工場にはかろうじて読める名称が表示されていたが、その他には何も示されていなかった。
カンボジアの労働者権利団体の助けで、私はこれらの工場のいくつかにおいて労働者と直接話すことができた。彼らは一様に自分が働く工場の名称を知らず、国家社会保障基金(NSSF)に加盟しているかどうかについてなど、考えたこともないと言った。また労働者らは工場の身分証明証を持たず、たとえ持っていても単に所属する部門と自分の名前を走り書いたものであり、工場名の記載はなかった。彼らが働く工場では周辺の主に輸出向け製品を扱う大規模工場から「仕事」を受注しているが、労働者らは彼らの衣料品を購買元であるブランド名については知らなかった。彼らの生産工程ではラベルが一切付けられていないためである。
こうした工場では通常、4月から11月の間か「繁忙期」の間だけ、出来高制で労働者を雇用すると教えてくれた。一方で閑散期には工場は閉鎖される。これらの工場には謎が多く、カンボジアの労働者の権利を損なっている恐れがある。そこで働く労働者らも、国家社会保障基金(NSSF)を含め、労働保護の恩恵を受けるべきである。
今年の初めにファンド関係者や労働省は、国家社会保障基金(NSSF)のもとに労災をカバーしたヘルスケアを導入するという重要な一歩を踏み出した。だがこうした小規模工場で働く縫製労働者が病気やけがをし、保障を必要とする場合においても、工場が国家社会保障基金(NSSF)に登録していなければ彼らは放置されてしまう。
アパレル業界におけるいくつかの問題は解決するのが難しいが、この問題はそうではない。カンボジア政府はすべての工場に対して国家社会保障基金(NSSF)に加盟するよう通達し、従わない場合は罰則を加えるようにすべきである。さらに、国家社会保障基金(NSSF)に加盟しているすべての工場の産業別リストを公開すべきである。
グローバルブランドは長期間、多くの下請工場について、それらの生産における役割を認めないまま、そこで働く労働者から恩恵を受けてきた。ほとんどのブランドでは小規模工場に対する不当なアウトソーシングを禁止する行動規範を規定していながら、実際の購買行動ではこうしたアウトソーシングを利用している。こうした工場での生産を認知していないため、ブランドにおけるサプライチェーンのモニタリング対象とならないのである。まれにこうした工場の利用を検出した場合、ブランドは自社のサプライチェーンにそれらを吸収する対応を行ってきた。
世界のアパレルブランドは、カンボジア政府や当局に対し、すべての工場や労働者が国家社会保障基金(NSSF)に加盟していることを確認し、登録工場リストを公表するよう求めるべきである。アパレルブランドは小規模な下請工場で働く労働者を保護するために多くを行うべきであり、カンボジア政府に対して対応を促すことは正しい方向への第一歩となる。
カンボジア政府と世界のアパレルブランドは、大規模、小規模問わず全ての工場で働く労働者について、国家社会保障基金(NSSF)のもとで法律に規定された彼らの完全な権利を守るという共通の目標を達成すべく協力していくチャンスである。
ソース:http://apparelresource.asia/news/item_2630.html