昨年度の国際協力銀行調べによると、日系企業による中期的フィリピン事業展開の見通しに関するアンケートにおいて、回答企業137社のうち、事業展開を「強化・拡大する」と答えた企業は56.9%であり、前年の52.1%から上昇傾向にある。また上記の「強化・拡大する」と答えた企業のうち55%が生産に関して、67%が販売に関して強化・拡大すると回答しており(重複回答あり)、フィリピンを生産拠点としてのみならず、新たなマーケットとして活用しようという動きが活発になってきている。
このような動きの中、ドゥテルテ政権下でのビジネスチャンスはどこにあるのか。
先月23日通商長官ラモン・ロペス氏は、フィリピンの経済成長が極めて良好であるとの統計発表を行っている。それによると、製造業の成長が8.1%、外国投資は1月から7月までで100%の成長、投資委員会に登録されているものでは93%であった。ロペス氏はまた、新政府の動きにも自信を持っていると述べ、投資家との対話も増えていると話した。
先日の中国訪問が記憶に新しいドゥテルテ大統領だが、同氏は南シナ海の問題で過激発言を繰り返していた。一方、6月末のドゥテルテ大統領就任後、中国からの投資家や観光客がフィリピンへ戻り始めているという。フィリピン商工会議所名誉会長のフランシス・チュア氏によると、近く、フィリピンに中国人観光客や投資家約2000人規模のツアーが予定されているという。また、アジア開発銀行もドゥテルテ政権の経済基本方針10のもと、フィリピンの経済成長が継続するだろうとの、前向きな見解を示している。
このような近況の中、特に注目したいのは、ドゥテルテ大統領を輩出したミンダナオ島におけるビジネスチャンスだ。ドゥテルテ氏は当選前からフィリピンの連邦制への移行の考えを示していた。閣僚人選も全国から幅広く行われたが、特にミンダナオ出身者が多く、半数を占めている。これは、これまでマニラ首都圏・ルソン島に過剰に集中してた投資を地方に分散させるための礎である。インフラ関連予算の投資配分など、中央・地方の格差是正が行われることが期待されている。是正が成功すればミンダナオ地方の発展はほぼ確実であろう。
事実GDP比較では、マニラ首都圏を含むルソン全体が全体の73%を占め、ビサヤが12%、ミンダナオが14%に過ぎないのに対し、成長率はルソン6%、ビサヤ5.6%、ミンダナオ7%と、ミンダナオが最も高い水準となっている。(国家統計局調べ)
このデータを裏付けるのが2016年7月3日の「ミンダナオ投資局(BOI)ヒル・ドゥレザ氏からの発表」である。同氏によると今年の上半期だけで、8867億ペソ相当の投資希望が出たという。このラッシュ現象は大統領選挙期間中に始まり、選挙後に顕著になった。投資希望分野の内訳は、官民パートナーシップ事業(390億ペソ)、製造業、特に石油化学、鉄鋼業(7420億ペソ)、インフラ、ポート建設(30億ペソ);発電(490億ペソ)、農業リソース(P330億ペソ億)であった。
一方、2015年、2016年上半期に承認された投資額を比較すると、2015年上半期が113.5億ペソ、2016年が、130.3 億ペソであった。今後ミンダナオへの投資が加速することはほぼ間違いない。
中でも成長度が高そうなものは、建設、農業、サービス、BPO、ITである。ミンダナオ開発局は、コメ農地を大規模集約化し、住宅、発電、通信、インフラへの土地転用を計画している。BPO、ITに関しては、ダバオ市に6ヶ所、カガヤン・デ・オロ市に1ヶ所の経済特区を設け、今後も数を増やしていくという。これら両市はBPO業界団体BPA/Pが指定する次の進出候補地にも選出されている。BPO/IT産業の発展に伴い、小売(コンビニエンスストアなど)・飲食といったサービス産業の発達も予想される。
サービス業に関しては、現在ミンダナオ・ダバオ市で最も急速展開を見せる好例が、コンビニチェーンのセブン・イレブンである。ドゥテルテ政権前の2015年5月から市内で展開を開始。既に100店舗近くの店舗数となり、ダバオ市のコンビニ市場は同社のほぼ独占状態となった。もともとダバオ市では地元コンビニエンスチェーンが店舗展開を行っていたが、セブンイレブンの圧倒的な店舗力で集客を下げ、店舗数を減らしている。セブン・イレブンは2013年の時点でフィリピン国内の店舗数が1,000店を突破していたが、店舗展開はルソン地域に限られていた。その後セブで100店舗の展開を成功させダバオにも進出した。
この例からも伺える通り、ミンダナオ投資の魅力は、土地、原料、人材などのリソースのみならず、その未開拓なマーケットが挙げられる。冒頭でも述べたが、今後フィリピン進出を考える際は、生産拠点としてだけでなく、投資地域の市場価値を判断すべきであろう。しかしながら、注意すべき点もある。
これまで、フィリピンは主に、製造業などを中心に、給与水準が他国より比較的安く、安定していることが進出の決め手となってきた。例えば中国の場合は、2010年~2014年で、100ドル以上も製造業の単純作業辞任の給与が上昇しているが、これまでのところフィリピンでは水準が安定している。しかしドゥテルテ政権下では、労働者の賃上げや、「労働のみ提供の下請け契約」の見直し(=派遣会社による作業員派遣への規制)などが検討されており、労働条件、労務周りの法規制変更に関しても注視が必要である。
また開発が進む地域の物価上昇率も無視できない。ダバオに関して言えば、マニラと比較すると、通信以外はダバオの方が高い水準となっている。これが続けば、現状マニラ首都圏よりも安価である労働賃金も上昇し、価格優位性が薄れるであろう。
最後に、7月10日に財務大臣カルロス・ドミンゲス氏が「ドゥテルテ氏が外国投資規制をなくすために憲法を変えようとしている」と発言したことをお伝えしておく。外国投資の規制が緩和されると、更に多くの分野で外資投入が可能になり、ミンダナオ島の投資チャンスが劇的に増加する。外交に関してはパフォーマンス色が強いドゥテルテ氏だが、同氏の国内における有言実行力は周知の通りであろう。様々な懸念はあるものの、フィリピン投資は今が狙い目であると断言したい。今後ドゥテルテ大統領の発言のみならず、特にミンダナオの投資チャンスには目を向けて頂きたい。
文・三宅一道(株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ)
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