欧州委が新たに違法と判断したのは、2003年から14年にかけてアイルランドがアップルに適用していた税優遇措置。アイルランドの法人税率はEU加盟国で最も低い12.5%だが、アップルは現地子会社が製品を仕入れ、世界各地に販売した形にして米国以外の利益がアイルランドに集中するよう会計処理を行い、税負担を軽減していた。欧州委によると、同社に適用された実際の税率は03年の1%から14年には0.005%まで引き下げられていた。
欧州委のベステアー委員(競争政策担当)は「EU加盟国は特定の企業に税優遇策を適用することはできない」と指摘。「すべての企業は利益を上げた場所で納税しなければならない。それは欧州企業であろうと、外国企業であろうと同じことだ」と述べ、欧州委が米企業を標的にしているとの米側の見方を否定した。
これに対してアイルランド政府はアップルへの追徴課税を不服とし、2日の閣議でEU司法裁に提訴する方針を決定した。週内にも議会で承認される見通しだ。欧州委の指示に従えば、アイルランドにとっては大幅な税収増となり財政再建に弾みがつくものの、企業にとっては同国に拠点を置くメリットが失われ、低税率を武器にした企業誘致や雇用創出が難しくなると判断した。
ヌーナン財務相は会見で、合法的な課税措置に対して遡及的に課税を命じた欧州委の判断は「グロテスクで理不尽だ」と批判。「法律に基づいて交わされた取り決めが10年以上経ってから違法と認定され、滞納分の納税を命じられるとすれば、欧州に投資を呼び込むことは極めて困難になる」と指摘した。
一方、アップルは欧州委の決定を受け、「当社がアイルランド政府から特例的な優遇措置を受けたとの欧州委の指摘は事実無根だ。命令は撤回されると確信している」との声明を発表。「欧州委がアイルランドの主権を侵して遡及的に課税を命じれば、欧州への投資と雇用に悪影響が及ぶことになる」と警告し、アイルランド政府とともに法的措置を検討する方針を明らかにした。
米当局も欧州委への批判を強めている。財務省は先月24日公表した白書で、米国に本社を置く複数の多国籍企業がEU加盟国の税務当局と課税措置に関する取り決めを交わし、納税額を低く抑える手法を導入していた事実を認めたうえで、こうした税慣行は国際的なルールに基づいておりこれまで広く認められてきたと主張。欧州委は「超国家的な税務当局の役割を担おうとしている」などと強く批判した。また、ルー財務長官は31日、欧州委がアイルランドにアップルへの追徴課税を命じたことを受け、「米国の税収に手を出そうとする動きを懸念している」と発言。アップルが追徴課税を受けた場合、米国での納税に際して、その分が控除されて税収が目減りする事態を警戒した。