2016年ベトナム経済予測は「安定成長」継続も、調達率などがリスク
2016年1月、米Bloombergが発表した2016年の経済予測リポートにおいて、ベトナムのGDP成長率は+6.6%と見込まれ、東南アジア地域で1位、世界93か国・地域では2位に入ると予想された。ちなみに、同ランキングの世界1位は予想経済成長率+7.4%のインド。また、ベトナムと同率で2位に入っていたのは、此度の凄惨なテロ事件により我が国の人命も奪われ、自国も大きな傷を受けたバングラデシュであった。
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その後、2016年4月、世界銀行とIMFはベトナムの2016年実質GDP成長率がベトナム政府の目標を下回るとの見通しを発表した。ベトナム政府の目標は+6.7%。これに対し、世界銀行の予測は+6.2%、IMFの予測は+6.0%だった。下方予測の理由として挙げられたのは大規模な農業被害や第1四半期の成長率鈍化(前年同期比)であったが、ベトナム政府は外国直接投資や貿易黒字、為替レートの安定などを挙げて目標を変更しない方針を示した。
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ベトナム政府の変更無しという方針を支える根拠は下記の通り。
・不動産市場では昨年より再び外資投資への規制が緩和され、都市圏への不動産開発は活況を呈している
・外資系企業の生産拠点化により輸出もまずまず好調
・為替も安定している
世銀やIMFの下方修正が現実になったとしても、実質GDP成長率+6~7%という数値は、ASEAN主要国の中でも高い。人件費が高騰するタイ(+3.2%/上記Bloombergリポート)や政治リスクをはらむインドネシア(+5.2%/上記Bloombergリポート)に比べてベトナムへの高い期待が伺える。また、+6.5%を見込まれてはいても、同時に景気後退確率12%と評価された中国(上記Bloombergリポート)と比較しても信用度が高い。
2011年以降、急成長よりも安定成長を目標に掲げ努力してきたベトナムが手に入れた「堅調さ」は、今こうして人々の目に魅力として映っている。
◆衰えぬ「魅力」と、注視すべき「リスク」
しかし、この堅実な成長がこのまま続くのか、成長を阻みうるリスクは何なのかというのが気になるところ。外資牽引がメインのベトナム経済を支える要素の中にも、「魅力」にカウントできるものから「魅力」と「リスク」の狭間にあるものまで様々だ。日本企業にとって気になる要素をいくつか見ていきたい。
○人件費
人件費は、ベトナムに進出する日系企業にとって大きな魅力として映っている。そして確かに今はまだ「魅力」に数えられるが、今後いつ「リスク」化していくかはわからない。「通商弘報」(2016年4月)でも、「人件費の高騰」はベトナム投資環境上のリスクで3番目に高い項目だったと報告している。2015年の賃金上昇率は10.0%で、ハノイ市、ホーチミン市などを含む地域では最低賃金が月額350万ドン(約1万7,500円、1ドン=約0.005円)と前年に比べ12.9%上がった。現在の賃金水準は中国の半額程度であるし、ドル・ドンレートがドン安傾向のためドル建てで見れば賃金は上がりにくい状況といえるものの、将来的には最低賃金が急上昇する可能性もある。そうなった時に、ベトナムが海外進出先としての魅力を維持できるのか、注目されるところだろう。
○内需の拡大
こちらは今しばらく「魅力」と言えそうだ。外資系企業進出に伴い雇用が増加、政府の賃上げ政策もあって、ベトナム国民の中間層は増えつつある。依然として農村部の教育水準、給与水準の低さという課題は残るものの、全体としての所得は向上している。その表れとして、SKETCH PRO「2016年予測! ベトナム経済と日系企業」によれば、2015年には若年人口の多さや収入の上昇から外食産業が伸び、人口の6割を占める農村部の消費傾向も変化しつつあって、シャンプーや石鹸などの消費財が少しずつ伸びている。
○インフラ
今後、「リスク」として一層表出してくる可能性がある。インフラ整備は進んではいるものの、昨今の経済成長に十分なほど進んでいるとは言えない。今後も投資が急増すれば、輸出入の遅延や国内物流の滞りも懸念される(SKETCH PRO「2016年予測! ベトナム経済と日系企業」)。
○現地調達率
現在の現地調達率の低さは、日系企業にとっては「リスク」。ベトナム進出日系企業の「全材料・部品の調達先」で「現地」回答は32.1%。依然として低い数値ではあるが、2010年に比べると向上している。現地調達率については集まる業種の差もあって、電子部品・輸送機器部品などが多い北部では29.2%、食品加工・衣服・繊維などが多い南部では36.2%となっている(「通商弘報」2016年4月)。SKETCH PRO「2016年予測! ベトナム経済と日系企業」でも、「日本からの投資案件は高品質なものが多く、日系企業は法律の遵守、安全な労働環境の確立などに取り込んでいるため、ベトナム政府は日本政府も日系企業を大切にしている」としながらも、TPPやAECで環境変化が加速されると、決断の早い企業はより有利となり、品質やパートナー選びにこだわり選定に時間をかける日系企業は一歩遅れになるかもしれないと予測している。ベトナムの課題でもある一方で、日本企業の特徴や戦略如何といえる面もありそうだ。
○法制度の整備の遅れ
「通商弘報」(2016年4月)によれば、ベトナムでの投資環境上の「リスク」として最大とされたのは「法制度の未整備・不透明な運用」だった。並んで挙がった「税制・税務手続きの煩雑さ」、「行政手続きの煩雑さ」と共に、2015年7月に施工された改正投資法・起業法の施工細則の遅延が影響しているとの見方がなされている。JICA は2015 年「2020 年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト」を開始したが、ベトナムにおける法整備は短期で解決できるほど簡単ではなく、長期的な取り組みが必要とされる課題である。
以上、今後のベトナム経済「成長」の行方は、前述の要素1つ1つを見ても当面は「継続」といえるだろう。加えて、進出する国、企業によっても左右されられる面があることを意識させられる。
(参考文献)
・三菱東京UFJ銀行 BTMU ASEAN TOPICS No.2015-8 ベトナム経済:ASEAN主要国の景気が勢いを欠くなか、際立つベトナム経済の底堅さ
・みずほインサイト アジア ベトナム経済はなぜ堅調か
・JETROサイト 経済動向:ベトナム
・Bloomberg “Meet 2016’s Worst Economic Performers”
・JETRO「世界のビジネスニュース(通商弘報)」 2016.4.11ハノイ発
・在越日本人ビジネスマンの新雑誌 スケッチプロ SKETCH PRO「2016年予測! ベトナム経済と日系企業」
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