フュスト所長はEU離脱後も英国が域内市場にとどまるようにすることは緊急性の高い課題だと指摘した。EUと英国が速やかに交渉を行い、両者の経済関係の先行き不透明感を長引かせないことが重要だとしている。先行きが読めない状況下では企業は投資などの決定を下しにくく、景気に悪影響が出るという事情がある。
ドイツのメルケル首相は24日の記者会見で、「英国とEUの今後の関係を緊密で協調的なものにすることが我々の目標だ」と語った。英国のEU離脱に向けた交渉を見据えた発言で、特にドイツの国民と経済界の利害を重視して交渉を進める考えを示した。
ただ、政府は英国に大きな譲歩をしない構えだ。EUを離脱するにもかかわらず英国が将来もこれまでと同様の権利を享受できるようだと、追随の動きが他の加盟国に連鎖的に広がりEU瓦解につながりかねないためだ。経済紙『ハンデルスブラット』によると、独財務省の内部文書には「(EUが英国と今後締結する協定が)他の加盟国に誤った刺激を与えることを回避しなければならない」と記されている。
英国は今後、EU条約50条の規定に従い欧州理事会に離脱の意向を通告する。EUはこれを受けて英国と交渉を開始。離脱の条件と両者の将来の関係を取り決めることになる。
メルケル首相はこれをにらみ28日の政府声明で、「交渉は“いいとこ取り”の原理に基づいて行われてはならない」と強調。英国がEU加盟国に課される義務をブレグジットによってすべて免除される一方で、域内市場に自由にアクセスできるといった“特権”をこれまでに引き続き享受することは認められないとの立場を明確に示した。
EU加盟国でなくても域内市場に自由にアクセスすることは可能だ。事実ノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインは欧州経済領域(EEA)の枠組みないし個別協定を通してEU市場に参加している。ただ、その条件としてEUに毎年、資金を提供するほか、EUの原則である人、モノ、資本、サービスの自由移動を受け入れなければならない。
英国のEU離脱決定は東欧の加盟国からの移民流入に対する国民の不満が背景にある。このため、同国がEUと今後締結する協定で、人の自由移動(EU市民の自由な移住・就労)を認めることは難しく、これが交渉の大きな障害になると予想されている。
<独英取引所の合併計画に暗雲>
EU離脱決定を受けて、欧州航空機大手エアバスのエンダース社長は対英投資計画を再検討する意向を表明した。ドイツ銀行もユーロ圏の国債取引業務をロンドンから引き上げる考えだ。
ただ、多くの企業はひとまず“保留”の姿勢で、明確な方針を打ち出していない。「ブレグジットの長期的な影響を誰も正確には分からない」(エネルギー大手RWEのテリウム社長)ためだ。
一方、ロンドン証券取引所とドイツ取引所が合併し、新会社の本社をロンドンに設置する計画には暗雲が立ち込めてきた。ロンドンの金融競争力低下が避けられない状況下で計画を強行することに対し、ドイツで規制当局者や有力政治家の懸念が強まっているためだ。両取引所の合併計画を認可しない可能性があると示唆してきた地元ヘッセン州のアルワジール経済相は、EU離脱投票の結果は合併審査に影響するとの立場を明らかにした。