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フィリピン新大統領はトランプ以上? ドゥテルテの “過激すぎる” 噂と発言

 

<暗殺団を組織した?>

ダバオ市はフィリピンの他の大都市と比べても犯罪係数が非常に低い。ダバオはフィリピンでもっとも面積の大きな市であり、その広さはその他の地区の「州」に匹敵する。またミンダナオ島の西部、北部などは民族間の衝突や、NPAと呼ばれる過激派も存在することから、治安を維持するには不利な条件が揃っている。にも関わらず、なぜダバオ市では一定の安全性が保たれているのか。この理由のひとつとされるのが、「Davao Death Squad」と呼ばれる暗殺団の存在だ。
 
人権監視団体によると、1998年~2015年の間に1424人の犯罪者が「ダバオ暗殺団」に処刑され、そのうち14件が身元誤認による冤罪であったという。ドゥテルテ氏の暗殺団への関与は長年噂されており、本人も関与を認めるような発言をしているが、市民の多くは沈黙を保っている。
 
ちなみに筆者はドゥテルテ氏が副市長だった時代に、本人から市政についての考え方を直接聞いたことがある。ドゥテルテ氏は「私が市長として16年近くやってきたことは街の治安改善のみだった。それ以外は二の次だ。なぜなら投資や街の発展は安全が確保されれば自然とついてくるからだ」と語ってくれた。一貫した信念に感心した記憶がある。
 
そしてまた別の機会に、ダバオ暗殺団の最高司令だという男性にも会ったことがある。こちらは恐ろしすぎて裏を取る気にもなれず、挨拶のみで退去させていただいた。話が怪しくなってきたため、このあたりでご勘弁願いたい。
 

<言いたい放題の罵詈雑言、危険なジョーク>

さて、歯に衣着せぬ過激な発言で有名なドゥテルテ氏だが、選挙期間中にはさらに過激な発言を続け、その度に支持率が上昇した。しかしながら発言の中には、本人の単なるプライベートの暴露、罵詈雑言、危険なジョークも見られ、大衆の反感を買うことも少なくなかった。ここではドゥテルテ新大統領の過激発言を一部紹介する。
 

【1】 ローマ法王に「サノバ◯ッチ、もう二度と来んじゃねぇ」と発言

フィリピンは国民の8割以上がカトリックである。また全体の1割がその他のキリスト教徒であり、イスラム教徒は5%程度と、フィリピン国民のほとんどは特定の宗教に属している。しかしドゥテルテ氏は「神は信じるが特定の宗教を持たない」と断言している。これはフィリピンではマイノリティー中のマイノリティーである。家族にもイスラム教徒、キリスト教徒がおり、宗教に関しては非常に柔軟な姿勢を見せている。しかし流石にこの「ローマ法王への暴言」は国民から相当非難を受けたようだ。選挙関連のイベントでマニラを訪問した際、ちょうどローマ法王が来比しており、首都圏では大渋滞が発生していた。ドゥテルテ氏は本人が長時間足止めされたことに関して「サノバ◯ッチ。もう二度と来んじゃねぇ」とジョークで発言。これにも非難が集中したが「政府の対応の悪さを指摘しただけであって法王のことではない」と返した。ちなみに大統領選挙の直後「ヴァチカンに行って教皇に懺悔をしたい」との発言もあり、全く話題に事欠かない人物である。
 

【2】 「人を撃つのは慣れているし、卒業間際にも一人撃った」と発言

こちらは2016年4月、イロイロ市での選挙演説中の発言である。ドゥテルテ次期大統領は「学校卒業間際、日頃から俺を地方出身者と言って差別する同級生に向かって、殴ってみろ、殴ったらお前を撃つぞと言ってやったところ、鼻を殴ってきたので一発お見舞してやった。」と状況を説明した。ちなみに撃たれた同級生に命の別状は無かったが、この事件でドゥテルテ氏は卒業式への出席が禁じられたという。
 

【3】 「妻は二人、彼女も二人いる」と私生活を暴露する発言

ドゥテルテ氏が金回りの潔癖さをアピールするために選挙中に発言した私生活の暴露がこちら。「私には妻が二人、彼女も二人いるが、彼女たちに公的な金を渡したことは一度もない。全て個人的な金を使っている」と発言。「妻の一人は病床に臥せっており、もう一名はブラカン州に住んでいる。ガールフレンドは、ショッピングモールでレジ打ちの仕事をしているのが一人、化粧品ショップの店員が一人だ」と説明した。さらに、コンドミニアムに住んでいるわけでなく、その辺の下宿で普通に暮らしている、とジョークなのか何なのか全く判断できないストーリーを暴露した。
 

【4】 「市長が初めにレイプするべきだった」と発言

こちらは選挙期間中にドゥテルテ氏が、犯罪撲滅について語っているときにジョークで言ったとされる内容である。刑務所内で起きた女性宣教師レイプ事件について、タガログ語で「やつらは順番に被害者をレイプしたが、市長が初めであるべきだった。」と発言した。これにはもちろん多くの国民から非難が集中した。これに関してドゥテルテ氏は後のインタビューで「あれはジョークではない。心のそこから怒っていたためスラングが口から出た。誰がレイプがするのか? 俺が最初に殺してやる、という意味だったが、口が悪いのは私のスタイルだ。それに関してはフィリピンの皆様に謝りたい」と述べた。その上で「あの後16人のレイプ犯たちを殺してやった」と語った。
 
上記、選挙中にドゥテルテ氏が発言したものを中心にまとめたが、実際にはもっと過激なことも言っており、数え挙げれば切りがない。が、実はドゥテルテ氏の暴言は選挙期間でなくても、毎週テレビで聞くことができる。ダバオ市では市長に電話をかけて直談判するというテレビ番組が放映されおり、毎週日曜日に市長が出演しているのだ。タイトルは「Gikan sa Masa, Para sa Masa(市民から、市民のために)」であるが、この番組中は自主規制音(ピー)が入りまくる。
 
実はつい先日、当番組がドゥテルテ氏の大統領就任後も継続され、全国区の番組として放送される計画がニュース報道された。国民が全国区で毎週大統領の「暴言」を聞ける日も近いかも知れない。
 

<違反者は自ら鉄拳制裁?>

最後に、ドゥテルテ氏が「粛清人」と呼ばれる所以について紹介しよう。大統領選挙中には「鉄拳ドゥテルテ」と書かれたロゴが宣伝に使われたが、ドゥテルテ氏は自ら制裁を行う武闘派としても有名である。
 
そんな鉄拳ドゥテルテ政権で実施される可能性があるとされる政策のひとつが大規模な禁煙条例だ。ドゥテルテ氏が市長を務めてきたダバオ市では2002年から禁煙条例が設けられており、公共スペースでは一切喫煙ができない。条例を無視する韓国人ゲストが多かったことから、韓国人の出入り禁止を敢行させられたホテルすらある。そんな禁煙条例に関して、最も過激な話がこれだ。
 
2015年3月、ダバオの市民祭り「アラウナン・ダバオ」の最中にレストラン内で喫煙を続ける外国人がいた。再三の注意にも関わらず喫煙男は一切言うことを聞かず、挙句の果てに「俺はドゥテルテの金でタバコを吸っているわけじゃねぇし、条例なんか知らねぇ」とレストランのマネージャーに罵声を浴びせた。そこでレストラン側が警察に通報したところ、なんと数分のうちに市長が自らレストランに参上した。市長はおもむろに38口径のリボルバーを取り出して一言、「お前の選択肢は3つだ。1. 金玉を撃ちぬかれる、2. 刑務所行き、3. タバコを火種ごと飲み込む」これを聞いて男は迷わずタバコを口に放り込んだという。
 
その他にも、市長自ら犯罪者に制裁を加えたという話は枚挙に暇がないが、これは単なるお遊びというわけではない。ダバオ市の犯罪係数は28.51ポイントと、最近日系企業の進出が目立つセブ市と比較しても非常に低く、100万人あたり犯罪発生率でもセブの7割以下となっている。(セブ市犯罪係数:51.87 ※情報元:Numbeo/フィリピン国家警察)
 
また、市長が自らバイクで市内を巡回したり、市民が市長に直接会って直談判できる日を設けたりもしている。こうした行動により市民の声を直接聞き、自らが行動するという「姿勢」を見せているとも考えられる。
 
冒頭で「ドゥテルテ氏がなぜ確実に政策を行い、成果を挙げられたのか」との問を投げかけたが、その有言実行力、一貫した信念、過激発言による話題性、市民への近距離感、表と裏の「パフォーマンス」、これら全てがドゥテルテ氏の実績とカリスマ性を作り上げてきたのであろう。
 
この「パフォーマンス」が大統領としてどこまで行えるのか、今後も鉄拳制裁は続くのか、今年はフィリピン大統領の動向から目が離せない年になるに違いない。
 
文・三宅一道(株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ)
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