香港「一帯一路」へ期待、経済低迷で悪化する雇用環境を救えるか
全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の張徳江・委員長は、特区政府主催の「一帯一路」サミットで基調講演を行った。香港は第1四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率が前期比でマイナス、輸出総額も12カ月連続でマイナス。雇用状況にも悪化傾向が表れ、競争力の低下が懸念される中、「一帯一路」戦略による商機に期待が寄せられている。(編集部・江藤和輝)
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特区政府が発表した第1四半期のGDP伸び率は前年同期比で0・8%となり、前期(15年第4四半期)の同1・9%から縮小。前期比ではマイナス0・4%で、前期の0・2%からマイナス成長に転じた。先進国の多くは経済状況が依然ぜい弱なため、アジアの生産・貿易活動は深刻な打撃を受けている。このため香港の第1四半期の輸出はさらに悪化し前年同期比3・6%減。個人消費は同1・1%増に鈍化し、投資は同10・1%減にまで落ち込んだ。政府は通年のGDP伸び率を1〜2%と予測しているほか、民間各機関の予測も1〜2・6%、平均で1.7%となっている。
4月の輸出総額は前年同月比2・3%減の2853億ドルで、12カ月連続の減少となった。4月の小売業総売上高は同7・5%減の352億ドルで、14カ月連続の減少。売上高の減少が目立ったのは、電器・撮影器材の同23%減、宝飾品・時計・高級贈答品の同16・6%減など。統計処は「観光業の低迷や経済状況が芳しくない中、市民の消費意欲が減退していることが反映されている」とコメントした。
香港生産力促進局は4月27日、スタンダード・チャータード銀行との協力による「渣打香港中小企業領先営商指数」の第2四半期の数字を発表した。同指数は3月下旬から4月上旬に中小企業806社を対象に第2四半期の「ビジネス状況」「収益」「投資の意向」「採用の意向」「世界経済の状況」の5つについて見通しを調査したもの。総合指数は40・4で、3期連続の下落。景況判断の分かれ目となる50を下回り、2012年に同指数の発表が始まってから最低となる。5つの分類指数では「採用の意向」が49・4と初めて50を下回り、「ビジネス状況」は35・0で最も下落幅が大きく、「世界経済の状況」は23・2、「収益」が33・9、「投資の意向」は47・7とすべて下落した。チャータード銀の劉健恒・高級エコノミストは「経済低迷が続けば中小企業32万社の約20%に当たる6万4000社が1年以内に倒産する」とみている。
香港人力資源管理学会の調査では企業の採用姿勢が慎重になってきたことも分かった。調査は2月に93社・機関(計11万9000人を雇用)を対象に行われた。上半期に募集人員を増やしたのは19・4%で前年同期の26・7%から縮小、据え置きにしたのは55・9%で同59・4%から縮小した。一方、人員募集を凍結したのは18・3%で同11・6%から拡大、募集人員を削減したのは6・5%で同2・3%から拡大した。上半期に採用意欲が高かった業界は通信、製造、金融サービス・銀行・保険。1〜3月に採用凍結の傾向が高かった業界は小売り、卸売り、貿易、電力・ガス・石油だった。同学会の李志明・会長は「中国本土からの旅行者数の減少、香港ドル高、投資市場の動揺、中国経済の減速、世界の需要減退が採用に影響している主な要素。特に観光、小売り、飲食、宿泊サービス、貿易などの業界が影響を受けている」と解説した。
統計処が発表した2〜4月の失業率は3・4%で、主に建設業、専門・商用サービス業で上昇。労工及福利局の張建宗・局長は「建設業の失業率は前月発表より0・5ポイント上昇し5・4%に達した。季節的要因もあるが建設活動の低調が影響している。また観光業の低迷で小売り、宿泊、飲食サービスを合わせた失業率も0・2ポイント上昇の5・3%となった」と雇用環境の悪化を示した。
◆ 本土への依存過度に反論
中国社会科学院が5月30日に発表した「中国都市競争力報告」では深&`市が昨年に続いて1位となった。かつて12年連続で1位を維持した香港は昨年、深&`に抜かれ、今年も2位。報告では香港について「社会の分裂が存在し、一部組織や関係者は比較的過激で違法な手段で政府の政策に反対し、社会の調和に影響を与え、観光業と小売業などの経済実績も影響を受けている」と説明した。
だがスイスのビジネススクール、IMD(国際経営開発研究所)が同日発表した「国際競争力報告書」では、香港は昨年の2位から1位に躍進。4年を経て再び1位に返り咲いた香港は、簡素な税制と低い税率、資金の移動に制限がないことや、外国企業の本土への投資や本土企業の海外進出の橋渡し役であることが評価された。
全人代の張委員長はサミットで「一帯一路」戦略について4つの面で香港が積極的な役割を発揮することを支援すると表明。その分野として①会計・法律など専門サービス業による総合サービスプラットホーム構築②人民元国際化の推進と「一帯一路」資金調達プラットホームの構築③「一帯一路」沿線諸国と文化・教育協力を強化④本土との協力深化による「一帯一路」市場の共同開拓——を挙げた。曽俊華・財政長官も講演し、アジア地域の連携強化にかかわるインフラ建設予算は2020年まで毎年約8000億米ドルを要することを挙げ、香港が資金調達プラットホームになり得ると指摘した。
「一帯一路」戦略で重要な役割を担うアジアインフラ投資銀行(AIIB)の金立群・総裁は4月に行われたフォーラムで、第2陣メンバーの受け入れを6月に検討することを明らかにした。候補リストには香港も含まれ、メンバーは100カ国・地域に拡大する見込みだ。金総裁は「香港はAIIBで重要な役割を発揮する可能性がある」と強調。香港のメンバー申請を迅速に処理するほか、今後、債券発行など香港でより多くの金融活動を行う可能性を示唆した。
曽長官は5月22日、公式ブログで「香港が従来から優位性を持つ産業(貿易・物流、専門サービス、金融、観光)はいずれも一帯一路の発展に参入すれば恩恵が受けられる」と述べ、自身が9月に香港代表団を率いてカザフスタンに赴くことを明らかにした。また香港経済の発展が「本土に過度に依存している」「国家との経済融合は香港経済にマイナス」との論調があることに触れ、「これら論調は香港の発展の歴史的現実と現在の世界経済の状況を理解していない」と批判。香港は引き続き本土との経済協力を強化することが最良の方法と断言した。
曽長官は米格付け会社ムーディーズが3月に香港に対する格付け見通しを引き下げた際も、「本土との関係が密接であることが香港経済のマイナス要素」とみなされたことに対し「リスクではなくチャンスだ」と反論した。むしろ本土との経済融合がさまざまな面で後れを取っていることに焦りを感じているのだろう。
写真:政府新聞処
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