ECBは物価と景気を押し上げるため、従来の低金利政策に加えて、ユーロ圏の国債や資産担保証券(ABS)、担保付き債券(カバードボンド)、EUの機関が発行する債券などを毎月600億ユーロ買い入れる異例の量的金融緩和を15年3月に開始。昨年12月には追加の金融緩和を決め、量的緩和の実施期間を17年3月まで6カ月延長したほか、14年6月に導入した中銀預金金利をマイナスとする措置についても、マイナス幅を0.2%から0.3%に拡大した。
それでも景気回復が緩やかなペースにとどまり、インフレ率も2月に再びマイナスに転じたことから、追加緩和に踏み切った。同日発表した最新の内部経済予測では、ユーロ圏の2016年の予想インフレ率を0.1%とし、前回(12月)の1%から大幅に下方修正した。
量的緩和では、国債などの買い取り規模を月800億ユーロに拡大する。新たに社債を買い入れ対象に含めることも決めた。預金金利のマイナス幅は0.3%から0.4%に拡大する。さらに、主要政策金利を0.05%から0%に引き下げる。新たな長期資金供給オペ(LTRO)を開始し、民間銀行に低利の長期資金を供給することも決定した。
ECBのドラギ総裁は1月に追加金融緩和を予告していたため、実施は予想通り。ただ、量的緩和の拡大は予測を超える規模で、政策金利の引き下げとLTROは予想外だった。政策金利の引き下げは14年9月以来。
新たなLTROの実施期間は16年6月~17年3月。民間銀行に期間4年の資金を政策金利と同水準の低利(現行0%)で供給する。同金利は企業などへの融資を増やした銀行に対しては引き下げられ、最低で中銀預金金利と同水準になる。つまり、銀行が現在はマイナス0.4%で長期資金を調達できることになる。銀行は借り入れるほど得をする格好だ。
預金金利のマイナス化をめぐっては、預金に“ペナルティー”として手数料を徴収することで、民間銀行に余剰資金をECBに預けず、市中に供給することを促す狙いがあるが、銀行の収益悪化を招くという副作用も懸念されている。銀行にマイナス金利で長期資金を供給するという異例の措置には、その悪影響を相殺したいという意図もあるもようだ。また、ドラギ総裁は理事会後の記者会見で、預金金利のさらなるマイナス幅拡大を控える意向も表明した。
12月の追加緩和は期待を裏切る小規模なものにとどまり、市場で失望感が広がった経緯がある。今回は逆に、手段を総動員した大規模な措置に打って出た。ただ、市場では世界経済がさらに下振れした場合に対応できる余地が残っていないとして、疑問視する声も出ている。理事会でも全会一致での決定とはならず、英フィナンシャル・タイムズによるとドイツとオランダの2人の理事が追加緩和策に反対したという。
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