施政報告では経済面で第13次5カ年計画(2016〜20年)と「一帯一路」戦略への呼応やイノベーション・科学の促進に重点が置かれた。梁長官は「今年は国家の第13次5カ年計画、『一帯一路』建設、イノベーション・科学の元年であるため、香港にとって重要なチャンスの年」と述べ、施政報告では「一帯一路」というキーワードが約40回も登場。行政長官主宰の「一帯一路」督導委員会を設置し、香港が「一帯一路」に参入する政策・戦略を策定、「一帯一路」弁公室を設置して政府の関連部門と香港貿易発展局(HKTDC)、香港政府観光局(HKTB)のとりまとめや中国本土各部門との連絡窓口とするほか、「一帯一路」地域の学生の香港留学を呼び込むため「特定地域奨学金」の枠を拡大する。イノベーション・科学では工業団地政策を調整して再工業化を図るほか、20億ドルのイノベーション科学ベンチャーファンドを設立。プライベート・ベンチャー・キャピタルと共同で新興企業に投資する。
民生問題では幼稚園教育の無料化が重点の1つとなった。香港では現在、約716の非営利幼稚園で教育バウチャーが適用されており、約13万5000人の児童が恩恵を受けている。だが教育バウチャーの金額は年間2万2510ドルで、学費がそれを上回れば保護者が差額を負担しなければならない。無料幼稚園教育委員会は昨年5月、全額支援の非営利半日制幼稚園を設けるなどの報告書を特区政府教育局に提出。政府はこれを基に政策を策定し、園児1人当たりの支援額を半日制(3時間)で年間3万2000ドル、全日制(7時間)で4万1000ドル、長全日制(10時間)で5万1000ドルとすることで、17年の施行時には半日制の非営利幼稚園のうち70〜80%が無料となる。さらに14年実績で約8900ドルとなっている幼稚園教員(常勤)の最低月給を1万8000ドルに引き上げる考えだ。政府の幼稚園教育予算は現在の41億ドルから67億ドルに増大する。
低所得家庭の若年女性に対する子宮頸がん予防ワクチンの無料接種も注目された。香港では現在、子宮頸がんの新症例が年間約400件あり、13年には142人の女性が子宮頸がんで死亡した。予防ワクチンの接種は高額であるため、低所得層を支援する関愛基金を通じた補助を検討する。民生問題では障害者支援の強化をはじめ、バリアフリー施設設置、公衆トイレへの高齢者優先スペース設置、バス停のいすの設置などに対する助成金など、細かな措置が多数盛り込まれている。
<住宅問題では手を緩めず>
香港大学民意研究計画は施政報告の発表前に市民の関心について調査を行った。調査は昨年12月から今年1月に2回に分け、計2025人を対象に実施。施政報告で重点的に処理すべき問題を尋ねたところ、トップは「住宅問題」の37%、次いで「経済発展」の17%、「政治体制の発展」の11%、「社会福祉」の10%、「医療政策」の7%、「教育政策」の5%、「人権・自由」の2%となっている。
香港研究協会の調査でも市民が最も注目しているのは住宅問題であることが分かった。調査は昨年12月29日〜今年1月5日、1099人を対象に行われた。政府に優先的に処理してもらいたい政策分野を5点満点で尋ねたところ、1位は「土地・住宅」の平均3・86点。前年度調査より0・05点低下したが4年連続でトップ。2位以下は「医療」の3・72点、「教育」の3・58点、「経済」の3・56点、「労働・就業」の3・56点となっている。同協会は「住宅相場が低下してきたにもかかわらず住宅問題がトップとなったことは、住宅価格と家賃の水準が依然として市民の負担能力を超えていることを反映している」と指摘した。
その住宅問題について梁長官は「開発と土地供給増加の努力が徐々に効果を表し、解決に向けて光が差してきた」と形容。不動産市場の過熱抑制策の緩和や土地供給の減少を否定し、引き続き住宅供給を増やすと表明した。今後5年で賃貸型公共住宅は7万6700戸、政府が購入を支援する住宅は2万400戸を供給。過去2年度の同様予測を上回る。今後3〜4年の民間開発による住宅供給量は過去11年で最高の8万7000戸に達するという。ランタオ島開発を推進するためのランタオ島拓展処の設置も盛り込まれるなど、一連の措置によって増える住宅供給量は約6万戸に上る。
だが香港大学民意研究計画が施政報告の発表当日に行った調査によると、市民の評価は100点満点で41・1点。「満足」との答えは19%、「不満」39%に達し、1999年以降の同調査で最低の評価となった。市民皆年金制度、法定労働時間、強制積立年金(MPF)のオフセッティング廃止といった昨今物議を醸している問題には触れていないからとみられる。部分的には梁長官の政権公約(マニフェスト)でもあるため、親政府派からも不満の声が上がっている。