天井打った香港住宅相場、1年半ぶり下落に転じる
不動産評価などを行う特区政府差餉物業估価署が12月4日に発表した10月の住宅価格指数は約1年半ぶりに下落に転じた。住宅市場では政府の過熱抑制策や米国の利上げ観測から取引は減少し、新築物件の供給増加によって住宅相場はついに天井を打ったとみられる。経済見通しが悲観されていることも相まって、来年は住宅価格が40%下落するとの予測も出ている。
(編集部・江藤和輝)
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10月の住宅価格指数(1999年を100とする)は302・6(速報値)で、9月の306・0から1・1%下落。昨年4月から18カ月連続の上昇に歯止めがかかった。ただし1月からの累計では8・7%上昇。返還バブルのピークである1997年10月の172・9に比べると75%高い。不動産代理の中原地産が4日に発表した中古住宅価格の指標となる中原城市領先指数(CCL)は139・82で、3週連続の下落。過去最高を記録した9月の146・92から4・5%下落し3月のレベルに戻った。
土地註冊処が2日に発表した11月の住宅取引の登録件数(10月の取引を反映)は2826件で、記録のある1996年以降で最低。中原地産が指標とする10大団地の11月の取引量は前月比9・2%減の89件。単月では記録のある2006年以降で最低となった。
特区政府が不動産投機抑制のための印紙税措置を打ち出して5年となるが、住宅取引はそれ以前に比べ大幅に減少した。美聯物業の統計では、10年11月に不動産の短期転売にかかる印紙税が施行された後、中古住宅物件の取引登録は顕著に減少。10年12月〜11年11月の登録件数は前年同期比約34%減の8万1200件となり、さらに翌年には7万100件にまで落ち込んだ。その後の印紙税措置の強化で過去3年は年平均5万件以下となっている。14年12月〜15年11月は4万2400件で、前年同期の4万7900件から11・5%減。過去5年の累計では28万4000件で、その前の5年(05年12月〜10年11月)の48万7000件に比べると41・7%減となる。
ただし新築物件の取引は過去1年で約1万7000件に上り、過去8年で最高を記録。主に新築物件が中古物件に近い価格で売り出されていることによる。新築取引をまとめた「一手住宅物業銷售資訊網」の統計によると、11月の取引は約1700件で、10月の991件に比べ70%の大幅増。取引額も10月の67億ドルから倍以上の138億ドルに達し、単月では下半期に入ってから最高となった。
一方、物件の転売から賃貸に転じるオーナーが増えているため、家賃相場にも影響が表れている。差餉物業估価署が発表した10月の家賃指数は175・7(速報値)で、9月の177・4から0・95%下落。19カ月連続の上昇から下落に転じた。1月からの累計では5・7%上昇。返還バブルのピークである139・3に比べると26・1%高い。
中原地産が指標とする100大団地の10月の平均家賃(実用面積1平方フィート当たり)は前月比1・8%下落の33・4ドル。4カ月連続の上昇に歯止めがかかり、11年11月以降で最大の下落幅となった。美聯物業の家賃相場の指標である「租金走勢図」でも10月の50大団地の平均家賃は同1・5%下落の33・8ドル。6カ月連続の上昇から下落に転じ、過去5カ月で最低となった。下落幅は11年10月以降で最大。利嘉閣地産が指標とする50大団地の10月の平均家賃は同0・8%下落の32・88ドル。2カ月連続の下落で、ピークである8月の33・56ドルから約2%下落した。
不動産コンサルタントのコリヤーズ・インターナショナルは11月に発表した来年の不動産市場の見通しで、4大不動産物件のうちオフィス物件を除けばすべて相場は下落し、中でも住宅物件が最も下落幅が大きいと指摘。中古物件取引は低迷状態が続き、小型物件は供給が増えるため、全体的な住宅相場は来年通年で15%下落すると予測。来年上半期に中古物件の取引量が依然低迷すれば香港金融管理局(HKMA)が過熱抑制策を緩和する可能性があるとみる。
<持ち家率80%を提唱>
各金融機関による来年の住宅相場の予測は、ドイツ銀行が33〜40%下落、大和証券が30〜40%下落、UBSが10%余り下落、モルガンスタンレーが5%下落、CLSAが今後27カ月で17%下落などとなっている。クレディ・スイスのリポートでは、利上げ、新築物件の供給増加、雇用市場の先行き悲観が不動産業にとって3大マイナス要因になると指摘している。
一方で住宅相場の上昇を予測する機関もある。シティバンクは今後3年の住宅供給量は年間3万6000戸で、年間4万8000戸の需要に及ばないことなどを挙げ、住宅相場はピークの9月半ばから来年3月までで7%下落するが、旧正月明けから取引が活発化し3%上昇するとみる。
シティバンクが12月3日に発表した住宅市場に関する意識調査の結果では過半数の市民が住宅価格の下落を見込んでいる。調査は香港大学社会科学研究センターに委託し、9月に500人を対象に行われた。今後2年の住宅価格の動向については52%が「下落」、18%が「安定」、30%が「上昇」と答えた。6月の調査に比べると「下落」は23ポイント拡大し、記録のある12年以降で初めて過半に達した。一方、「上昇」は22ポイント縮小し、この3カ月で市民の見方は逆転した。不動産を所有していない人のうち58%は自分が「今後10年は住宅を所有できない」と答えた。
多くの市民が一般住宅を購入できないため、公共住宅の入居申請は引き続き過去最高を更新している。9月末現在の賃貸型公共住宅の累積入居申請(当選待ち状態)は28万5300件で、6月末に比べ3100件増えた。うち一般(家庭)の申請者は14万2500件で、平均待ち時間は3・6年。政府が目標としている平均3年を超えているほか、6月末の平均3・4年からさらに悪化した。
董建華・元行政長官が主席を務める「団結香港基金」は11月初め、市民の住宅所有の割合を現在の53%から80%に引き上げることを目指し従来の公共住宅制度に代わる「持ち家補助計画」を提唱。今後建設する公共住宅は持ち家を目標とし、賃貸型に購入要素を加えた「まず借りて後で購入」か、分譲型のように「市価より割安で購入」の2種類を供給。購入の際は市価の50〜70%とし、銀行で95%の住宅ローンを組めるよう担保を提供する。
政治体制改革の際に発足した「政改民意関注組」から改称したシンクタンク「未来@香港」も11月末に住宅問題に関する世論調査の結果を発表。調査は嶺南大学に委託して10月半ばに1031人を対象に行われた。「政府はすべての市民が適切な住居を持てるようにすべき」に賛成は86・6%、「政府は市民の住宅購入を支援すべき」に賛成は62・8%だった。住宅相場は下落に転じたものの、梁振英・行政長官は過熱抑制策を緩めないと強調しており、実用目的に応じた政策を打ち出していくとみられる。
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