『汚職撲滅』と言い切れない所にフィリピンの病理が伺えるが、今回の改善は役職の高い人間ほど上昇率が大きく、公務員で最高額を取る大統領は現在の月額16万ペソから4年後には約40万ペソの2.5倍となる。
現行の16万ペソというのは邦貨にして約44万円で、一国の大統領として適切かどうか判断の分かれる所だが、日本の中堅企業の課長クラスといったレベルである。
といってもこの金額はあくまでも月給であって、フィリピンには『インセンティブ』制度があって、住宅から乗用車、交際費など日本の想像をはるかに超える優遇策が上級レベルに従って手厚く行われているので、給与額だけでは判断してはいけない国である。
改善法案によると大統領に次ぐ副大統領、上下院両議長、最高裁長官は4年後には月額35万3千ペソとなり、国会議員と最高裁判事、中央選管や人権委員会の委員長は月額29万5千ペソとなる。
一方、最低ランクに当る一般職員(1等級)は現在の9千ペソから4年後には1万1千ペソになり、約20%の上昇率で、これで分かるように今回の給与改定は上級職ほど上昇率が高いのが特徴となっている。
ちなみに部長職(24等級)は70%増の現在5万6千ペソから9万3千ペソとなり、その上位の局長職(28等級)は8万8千ペソから15万3千ペソへと大幅に上昇する。
また、何かと事件を起こす軍隊、警察、沿岸警備隊には別個の給与体系が定められ、一番下位の兵士、巡査の場合現行の月額1万5千ペソから4年後には1万6600ペソに上がるが、現行の安い給与で警官が新車を乗り回し、飲食店に出入りする者が多いのもこの国の不思議さにもなる。
なお、軍の最高位になる参謀総長と、国家警察長官の現行給与は8万2千ペソから15万ペソになるが、こういった上級職が高級車を何台も持ち豪邸に住んでいるのは公然の事実で、これらの現行公式給与額を見る限り、フィリピンの慢性的な公務員汚職は給与の問題ではないことが分かる。
こんな公務員の『お手盛り』給与引き上げより、フィリピンの上がらない民間の最低賃金を引き上げる方が先という声が一般には強いが、来年の選挙に向けて公務員に対していい顔をしたい為政者の思惑にはこういった声は届かない。