不正行為の事実は米環境保護庁(EPA)が18日、明らかにしたもので、VWは排ガス検査で許容値をクリアしていると見せかけるためのソフトをディーゼル車に搭載していた。同ソフトは路上走行状態を模擬して室内で行う検査を検知。当局の規制に見合った排ガス値を実現するように作成さられていた。実際の走行時には同ソフトが作動せず車両は許容値を大幅に超える有害物質を排出する。
EPAによると、該当するのは2008年以降に販売したVWと姉妹ブランド・アウディの計5モデルで、合わせて48万2,000台(年式ではVW「ジェッタ」「ビートル」「ゴルフ」およびアウディ「A3」が2009~2015年、VW「パサート」が2014~15年)。法律上は1台当たりの制裁額が最大3万7,500ドルであるため、VWは総額180億ドル強の支払いを命じられる可能性がある。リコールや損害賠償訴訟などのコストも莫大な規模に上るとみられる。
こうした事態を受けてVWは22日、第3四半期(7~9月)に引当金65億ユーロを計上すると発表した。15年12月期の利益も大幅に圧迫される見通しだ。同社の株価は21日と22日にそれぞれ18.6%、19.8%下落し、時価総額は計270億ユーロも縮小した。
VWによると、問題のソフトが作動するのは「EA189」というディーゼルエンジンを搭載した車両1,100万台。これらの車両では検査時の排ガス値と路上走行時の排ガス値が大きく異なる。ユーロ6に対応したモデルは該当しないという。EA189はザルツギター(ドイツ)、ポルコビツェ(ポーランド)、ジェール(ハンガリー)の3工場で生産された。
今回の不正発覚のきっかけとなったのは国際クリーン交通委員会(ICCT)とウエストバージニア大学が2014年12月に公表したディーゼル車の有害物質排出に関する調査報告だ。同調査のデータは実際の路上走行を通して得たもので、信頼性は室内の模擬施設のもよりも高い。それによると、調査対象となった15モデルの窒素酸化物(NOx)排出量は平均560ミリグラムに達しており、欧州排ガス基準「ユーロ6」の許容上限(80ミリグラム)を7倍も上回っていた。
VWはこれを受けて同月、米国でディーゼル車50万台を自主的にリコール(無料の回収・修理)したものの、その後EPAが実施した調査で改善が確認されなかったことから、EPAが同社に厳しく問いただしたところ、不正ソフトを使っていたことを白状したという。
<韓国などもVW車の検査へ>
同社は主力のVWブランド乗用車の米国販売が不振で、1~8月は前年同期比2.8%減の23万8,100台に後退。8月に限ると前年同月比8.1%減の3万2,300台と大きく落ち込んだ。
米国販売が振るわないのは、モデルチェンジのスピードが遅いうえ、同国で人気の高いSUVを投入していないためだ。SUV(「ティグアン」)の投入は17年になる見通し。
VWは米国販売の巻き返しに向けて、「汚く臭くうるさい」車としてこれまで同国で人気の低かったディーゼル車を「クリーンな車」として売り込んできた。このため、今回の不正発覚は、改善しつつあったディーゼル車のイメージを再び悪化させることにつながる懸念がある。独メーカーはVWに限らずディーゼル車の開発・製造・販売に注力しており、VWの今回の不祥事はドイツの業界全体に悪影響をもたらしかねない。同国の製造業や世界の自動車産業に対する信頼感が揺らぐとの懸念も出ている。
独高級車大手ダイムラーのディーター・ツェッチェ社長は20日開催された週刊紙『ツァイト』の催しで、VWと同様の違法行為がダイムラーでも行われてきた可能性を「100%排除する」ことはできないとの見方を示した。
環境に優しい交通の実現を提唱するドイツ交通クラブ(VCD)は、VWの不祥事は「氷山の一角」に過ぎないと主張。排ガス値の不正操作は他のメーカーも行っているとの見方を示した。
事態を重くみたドイツのドブリント交通相は、国内で販売されたVW製ディーゼル車を調査するための委員会を設置することを明らかにした。
今回の事件には米独以外の国も敏感に反応しており、韓国の環境省は22日、VWとアウディのディーゼル車を対象に排ガステストを実施することを明らかにした。問題が見つかった場合は、検査対象を独ブランドの全ディーゼル車に拡大する意向だ。フランス、スイス、カナダも検査を行う考え。フランスのサパン財務相は全メーカーを対象に欧州連合(EU)レベルの調査を実施するよう提唱している。