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【EU】排外主義の動き強まる、難民急増背景に申請が昨年の4倍

メルケル首相(キリスト教民主同盟=CDU=)は8月26日、ドレスデン近郊の小都市ハイデナウにある難民施設を訪問した。同施設をめぐっては前週末、移民の入居に反対する極右が暴徒化した経緯があり、首相は今回の訪問でそうした排外主義を弾劾した。
 
一方、ガウク大統領は同日、ベルリンの難民施設を訪れ、難民支援に自主的に取り組む市民を称賛した。ボランティアの取り組みは全国的に行われている。公共第二放送(ZDF)の世論調査によると、ドイツ人の60%は難民増加に対応できると冷静な姿勢を示している。
 
ハイデナウでは21日、旧ホームセンターを利用した難民施設に難民が到着した。極右のドイツ国家民主党(NPD)はこれに抗議するデモを開催し、約1,000人が参加。参加者は集会後、同施設に押し入ろうとして警備に当たっていた警察に火炎瓶などを投げつけた。
 
これを受けてガブリエル副首相(社会民主同盟=SPD=)が24日に同施設を訪問し極右を厳しく批判したところ、ベルリンにあるSPDの本部には翌25日、中傷のメール・電話が殺到。爆弾を仕かけたとの電話もあり、職員などが一時避難を余儀なくされた。
 
メルケル首相は事態を重くみて、ハイデンハイムを訪問した。首相はこうした極右の行動を「恥ずかしく嫌悪すべきことだ」と批判したうえで、「他者の尊厳を認めない者に対する寛容はない」と明言した。
 
ドイツでは放火をはじめとする難民施設への攻撃が急増しており、今年上半期には昨年通期(203件)とほぼ同水準の202件へと達した。
 
背景には欧州連合(EU)に到来する難民が急増しているうえ、ドイツが最大の目的地になっていることがある。デメジエール内相はこれを受け、同国の今年の難民申請件数を従来予想の45万件から80万件へと大幅に引き上げた。昨年実績(20万2,000人)の4倍に上る規模で、最終的に難民を受け入れる自治体の負担は限界に達している。
 
かつて社会主義国だった東部地区では人道に対する市民の意識が全般的に鈍く、移民の受け入れを拒否する住民が西部地区に比べて多い。
 
<国境検査再導入の可能性も>
 
ドイツに来る難民の多くは「バルカン・ルート」と呼ばれるギリシャ、マケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリアを経由して入国する。欧州(EU加盟国の大部分と一部のEU非加盟国)には難民が最初に到着した国で難民申請を行うルールがあるものの、ギリシャはほとんど順守せず、自国に到来した難民を隣国マケドニアへと素通りさせている。バルカン・ルートの国々は同様の姿勢をとっており、多くの移民は外国人に対し全般的に寛容で経済も好調なドイツに入国。同国で難民申請を行っている。
 
ハンガリーは自国に流入する外国人が増えてことを受けて今夏、セルビアとの国境(175キロ)に越境防止フェンスを構築し始めた。これを受けて難民の移動の動きが一段と活発化している。ハンガリーに入国でなくなると、その先にあるオーストリアやドイツに入りにくくなるとみられるためだ。マケドニアではセルビア方面に向かう列車が難民でぎゅうぎゅう詰めの状態で、駅やその周辺にも列車待ちの難民が座り込んでおり、「民族移動」の様相を呈している。
 
この大規模な移動の波はハンガリーに到達し、首都ブタペストの東駅は「希望の国」ドイツを目指す難民で溢れている。31日には警察が駅から引き上げたことから、独墺方面行の国際列車に難民が殺到。独南部のミュンヘン駅には31日夜から翌1日にかけて、約2,700人の難民が到着。墺東部国境のザルツブルクとミュンヘンの中間地点にあるローゼンハイム駅にも早朝に数千人が押し寄せた。

ハンガリーは独墺政府の抗議を受けてブダペスト東駅での難民規制を再開したものの、バルカン・ルートの難民は増えており、ハンガリーは対応し切れなくなる懸念がある。
 
難民が最初に到着した国が難民申請を審査するという欧州の現行ルールは難民の到来数が多い地中海諸国に大きな負担をもたらすという問題を抱えている。難民の多くがドイツやスウェーデンなど受け入れ体制が良好な国を目指しているということもあり、イタリアやギリシャは難民の身元確認や管理をしっかり行わず、ドイツなどに向かわせている。
 
欧州委員会はこうした問題の打開にむけて、国内総生産(GDP)や失業率、総人口に応じて加盟各国に難民の引き受けを割り当て負担の公平化を図る案を打ち出したものの、東欧諸国や英国の反対で実現のめどは立っていない。
 
デメジエール独内相は30日、80万人の難民申請に今年は対処できるとしつつも、長期的には不可能だと発言。EUレベルの公正な移民割当制度は必要不可欠だと強調した。難民の大量流入に適切に対処できない現状が続けば、EUの大きな柱である域内の自由な移動の原則(国境検査廃止)を維持できなくなるとしている。
 
<手当目当ての難民も>
 
ドイツでの難民申請者のなかにはセルビアやアルバニア、モンテネグロなど西バルカン諸国(旧ユーゴスラビアとアルバニア)の市民も多い。これらの国の市民は内戦中のシリアやアフリカ諸国からの避難者と違い難民申請が受け入れられる可能性はほとんどない。それにもかかわらず西バルカン諸国の市民がドイツに殺到する背景には、難民への支給額が自国の平均収入を上回っているという事情がある。申請が拒否されるのが確実でもそれまでの期間、小遣いなどの手厚い支援を受けられることがこれら市民を引き寄せる磁石となっている。
 
セルビアのブチッチ首相は独メディアのインタビューで、難民に対するドイツの手当が平均で月580ユーロに上るのに対し、セルビアの平均収入は同400ユーロにとどまると指摘。ドイツが手当を200ユーロに引き下げれば、西バルカン諸国からの難民申請は80%減少するとの見方を示した。
 
西バルカン諸国からの難民は今年に入って急増している。ビザ免除を受けてドイツに入国しやすくなったためで、政府は西バルカン諸国を難民申請が原則的に拒否される「安全な出身国」にすべて分類することで、これらの国からの難民流入を大幅に減らす考えだ。